- 【第二回】どれが獲っても論争勃発!? グラミー賞2017をブッタ斬り
- 【第三回】どれが獲っても論争勃発!? グラミー賞2017をブッタ斬り
- 【第四回】どれが獲っても論争勃発!? グラミー賞2017をブッタ斬り
- 【第五回】どれが獲っても論争勃発!? グラミー賞2017をブッタ斬り
今年のグラミー賞の最大の見どころはやっぱり“アデルVSビヨンセ”
では、今年のグラミー賞の行方を占い、その結果を楽しむための最大のポイントは何か。端的に言うと、今回のグラミーは“アデルとビヨンセの闘い”です。主要4部門のうち、最優秀新人賞以外の3部門すべてにアデルとビヨンセがノミネート。客観的に見ても、これはかなり妥当。しかも、かなり熾烈な闘いになることが予想されます。
この二組の作家がいずれも女性だということも重要ですが、と同時に、音楽ジャンルの違いだけでなく、それぞれの音楽が自らの出自や文化的な歴史を背負っているところがあります。これも極めて重要です。片や、アデルはそもそもは英国国教会のクワイアの出身、明確な宗教的バックグラウンドがあります。片や、ビヨンセはアフロ・アメリカン、アメリカインディアン、アメリカ南部を植民地化していたフランス人の血を引いています。少しばかり大袈裟に言うと、そうした差異が優劣を巡って競い合うということでもあるわけです。少なくともアメリカの人々はそんな見方を完全に払拭することは出来ないはず。つまり、単純なポップソングの優劣には留まらない、それが今年のグラミー賞です。
BREXIT(英国のEU離脱)とトランプ政権の誕生があったことで、1989年にベルリンの壁が崩壊して以来の歴史的な分岐点だと言われた2016年という新たな大きな歴史の節目に、社会全体をグラミー賞はどのように見たのか。今回の結果は、グラミー賞という価値観自体を炙り出すこともなります。つまり、今年のグラミー賞はグラミー自体の威信がかかっている。そういう意味でも、かなりエキサイティングな年なわけです。これでもし仮にアデルやビヨンセがひとつもアワードを受賞しないなんてことが起った場合、グラミーの権威は失墜してしまってもおかしくない。万が一にもないとは思いますが。少なくとも、僕自身は間違いなく机をひっくり返します。
さて、前置きが長くなりましたが、明日は各主要4部門について詳しく見ていきましょう。
Text: soichiro tanaka Photo: Getty, Aflo
-
田中宗一郎/音楽サイト「ザ・サイン・マガジン」のクリエイティブディレクター、音楽評論家、DJ。1963年、大阪府出身。雑誌『ロッキング・オン』副編集長を務めたのち、1997年に自ら音楽雑誌『スヌーザー』を創刊。その後、2013年秋にWEBメディア「ザ・サイン・マガジン」を開設。『スヌーザー』がオーガナイズするクラブイベント、クラブ・スヌーザーは全国各地にて現在も開催中。@soichiro_tanaka