- 【第二回】どれが獲っても論争勃発!? グラミー賞2017をブッタ斬り
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釈然としないグラミー審査基準
それには理由が2つ。もちろん、同じく年間最優秀アルバム賞にノミネートされていたケンドリック・ラマーの『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』という作品が2015年を代表する大傑作だったということもあります。しかし、それ以上に、この日の授賞式でのケンドリック・ラマーのパフォーマンスが圧倒的だった。世界中がその感動に思わず猛烈に引っ張られてしまったところがある。もちろん、異論は認めます。ただ、そんな風に世の中はいくつもの価値観で溢れている。そのすべてを納得させるのはとても難しい世の中になった。それだけは頭の片隅に留めておいていただければと思います。
もっともテイラー・スウィフトは7部門にノミネートされていて、この年間最優秀アルバム賞ほか3部門を受賞。一方、ケンドリック・ラマーは年間最優秀アルバム賞は逃したものの、そもそも9部門11ノミネートと最多ノミネート。結果として最優秀ラップ・アルバム賞を筆頭に5部門を受賞しました。受賞数から考えると、はるかにケンドリック・ラマーの方が評価されたと言えなくもない。でも、何か釈然としない、騙されたような気分になってしまう。その理由はこういうことです。
すごく乱暴に言うと、主要4部門と呼ばれる年間最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、年間最優秀アルバム、最優秀新人賞“以外”の大半の賞は、ポップ音楽の変化に合わせて全体のバランスをとるために後から付け焼き刃的に増やしていった賞でもあるんですね。特に90年代初頭のほぼ同時期にはヒップホップとオルタナティブロックが猛烈な人気を博し、それまでのポップシーンの様相をすっかり変えてしまった。それで、ポップシーン全体の構造変化にそれぞれのアワードの枠組みが収まらず、ちょっと穿った見方かもしれませんが、対処療法的にアワードの数を増やしてきたところがある。ただ興味があれば、それぞれの賞の名前をチェックしてみてください。「これとこれのどこがどう違うの?」という風に素朴な疑問を持つ方も少なくないはずです。
そして、今年のノミニーに関しても、ビヨンセが9部門ノミネート、リアーナが8部門ノミネート、チャンス・ザ・ラッパーが7部門ノミネート。つまり、最多ノミネートの作家の大半がアフリカ系。ちょっと昨年のケンドリック・ラマーを取り巻く状況と似てますよね。もしこれで主要4部門の大半が白人作家に与えられたりすると、また去年と同じような声が世界中から上がるに違いない。もちろん、グラミー側もこうした地雷を自分たちが抱えていることは折り込み済みでしょう。だからこそ、どんな審判を下すのか。世界中がそれに注目しているわけです。
Text: soichiro tanaka Photo: Getty, Aflo
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田中宗一郎/音楽サイト「ザ・サイン・マガジン」のクリエイティブディレクター、音楽評論家、DJ。1963年、大阪府出身。雑誌『ロッキング・オン』副編集長を務めたのち、1997年に自ら音楽雑誌『スヌーザー』を創刊。その後、2013年秋にWEBメディア「ザ・サイン・マガジン」を開設。『スヌーザー』がオーガナイズするクラブイベント、クラブ・スヌーザーは全国各地にて現在も開催中。@soichiro_tanaka