伝説の海外ドラマ「ツイン・ピークス」が帰ってきた!
2017/07/21(金)
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旧シーズンの魅力②

ビザールなキャラクターや物語に熱狂ファンが続出

殺人事件の謎解きばかりがクローズアップされがちだが、「ツイン・ピークス」の面白さは複雑な人間関係にもある。住人の誰もが健全であるかのように見えていた物語は、回を重ねるごとに田舎町の事情や複雑な人間関係が明らかになり、謎解きは徐々に背景でしかなくなってゆくのも特徴。カイル・マクラクラン演じる主人公・クーパー捜査官と共に、視聴者は脳内にキャラクター同士の複雑で意外な相関図を描いてゆくことが快感にすらなってくる。

本作の劇中劇としてテレビに映し出される「愛の招待状」というメロドラマがある。日本の昼ドラにあたるこの<ソープオペラ>は、ドロドロの人間模様を基本とした愛憎劇が特徴。実は「ツイン・ピークス」には、<ソープオペラ>をゴールデンタイムで実践するという製作意図もあったのだ。つまりこのことは、謎解きよりも人間関係を描くことを重視しているという裏付けでもある。

また主要登場人物に美男美女が多いのも「ツイン・ピークス」の魅力。例えば、ローラの同級生・友人である、ドナ(ララ・フリン・ボイル)、シェリー(メッチェン・エイミック)、オードリー(シェリリン・フェン)の女性3人は異なる魅力を放ち、当時視聴者の間で「3人の誰が好みか?」ということで男性も女性も話が盛り上がっていた。あえて異なる魅力を持つヒロインを複数配置することで、より多くの視聴者の共感を得ようとしていたという一例である。

クーパー捜査官役のカイル・マクラクランと、オードリー役のシェリリン・フェンはこの番組でスターに。

「ツイン・ピークス」に登場するキャラクターは、みな個性的であるのも特徴のひとつ。クーパー捜査官はダークスーツを着こなし、小型のマイクロテープレコーダーに音声で捜査状況を報告する。ブラックコーヒーとチェリーパイを愛する彼の推理能力と洞察力は抜群なのだが、“名前を唱えながら空き瓶に向けて石を投げる”といったスピリチュアルな捜査方法を用いるなど謎の部分も多かったりする。

また個性的な主人公以上に個性的なのは、いつも丸太を抱いている“丸太おばさん”と呼ばれる女性や、クーパーに予言を告げる巨人や小人、片腕の男といった異形の人々の存在。デヴィッド・リンチ監督の出世作『エレファント・マン』(80)は、生まれつき奇形の青年が見世物小屋から救い出されるという物語だが、“周囲と異なる存在”に対する想いは、リンチ作品に通じる要素でもある。長編デビュー作『イレイザーヘッド』(76)の父親、『デューン/砂の惑星』(84)の王子、『ストレイト・ストーリー』(99)のトラクターで旅する老人。彼らは皆“周囲と異なる存在”だったことに気付く。つまり“周囲とは異なる存在”とは、異彩を放つデヴィッド・リンチ自身のことでもあると解釈できるのだ。

日本では変則的だった「ツイン・ピークス」

“全30話”と表記されることの多い「ツイン・ピークス」。日本では「序章」+「ファーストシーズン全7話」+「セカンドシーズン全22話」という変則的な構成で鑑賞されていた。「序章」は本国で第1話として放送されたパイロット版なのだが、日本では1本の作品として1990年秋に先行してビデオリリースされたという経緯がある。これは製作費が足りず、海外の放映権で資金調達するために制作されたものだった。114分の「序章」にはオリジナルのエンディングが追加されている。それは、ローラの母が真犯人“ボブ”を部屋で見たことを思い出し、クーパーが赤い部屋に導かれるというシュールな展開のエンディング。実は、撮影時に映り込んでしまった美術スタッフの姿をそのまま使用したものが“ボブ”の正体。“ボブ”はそのままシリーズに出演し、赤い部屋の場面はドラマの中に流用され、それらは奇しくも重要な設定となっていった。

Text: Takeo Matsuzaki Photo: Getty Images、Aflo

  • 松崎健夫(まつざき・たけお)
    映画評論家。『キネマ旬報』などに寄稿し、『WOWOWぷらすと』『ZIP!』『japanぐる〜ヴ』に出演中。共著『現代映画用語事典』ほか。

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