特集 2017/8/26(土)
女性たちが支えたアメリカン・アートの歴史 Vol.5

1960年~80年代、アートで問題定義した女性たち

モダン~コンテンポラリーアートのなかで重要な様式や潮流を発信してきたアメリカン・アート。そこにはあらゆる方面で深く関わった女性たちがいた。今も変わらない男性優位の体制のなか、アートシーンを力強く開拓していった女性たちにフォーカスを当てる短期手中連載。最終回となる今回は、1960年代~80年代にアートで議論を巻き起こした女性芸術家たちを解説。

キキ・スミス、2015年撮影。

Photo: Getty Images

現代でも活かされる、女性アーティストの問題定義  
 
上記ふたりと友人でもあるキキ・スミスは、1974年、前衛的アーティスト集団「コラブ」に参加したことがきっかけで、月経血などの体液をアートに用い始めたアーティストのひとり。父親トニー・スミスはミニマリストの彫刻家、母はオペラ歌手、そして1980年に父を亡くし、ついで1981年に妹をエイズで亡くし、生と死、人間のからだの儚さと強さ、エイズ、ジェンダー、そして人種問題をテーマに今年の11月に開催されるヴェネツィア・ビエンナーレに参加予定だ。
 
生涯「(自分の作品は)フェミニンではない」と断言していたルイーズ・ブルジョワやリー・クラズナーなど、別の芸術運動の名のもとで活動していた女性アーティストたちをこの視点から再定義・再評価する向きもある。彼女たちが問うた問題は現在進行形で我々個人とそれを取り巻く全てのポリティクスに繋がっている。

六本木ヒルズにあるルイーズ・ブルジョワの作品。

Photo: Aflo

現代のアメリカン・アートは上記に示したような「第一世代」が今も現役バリバリで活動しつつ、自身の子供がアーティストやセレブリティとして活躍し始めているとき。そして、今はかつてないほどにダイバーシティが求められる時代。その影響を受け、若手女性アーティストは次々と誕生している。同時に、第一世代もスマホやパソコン、SNSもはじめている状態。つまり世間の動向にたいして瞬時にアートを通して発言したり、問いかけたりできるより大きなプラットフォームを持てるようになったということ。
 
これまで挙げてきたアメリカン・アートはこれまでにないほど価値を高めている。たとえば、ポストモダンの流れを組むジェフ・クーンズのキッチュな作品群は、現在もアメリカアート業界で大きな力を保ち続けている。これはイギリスにおけるダミアン・ハーストの人気ぶりと同じような発達の仕組みを持つものだが、違うのは米国内ではより商業主義に近い傾向があることだ。言い換えればヨーロッパ人がいまだ「美学」に重きを置いているのに対して、アメリカ人はほかの一般商品と同じような感覚でアート作品を売り買いしていると言える。

アンディ・ウォーホルとも交友があったルイーズ・ブルジョワ。

Photo: Getty Images

これが真実だとすれば、2008~2009年のリーマン・ショックによる不況がアメリカのアート作品に新たな付加価値設定を加えたはずである。コンテンポラリーアートはその資産価値の深刻な低下に既に悩まされているが、逆にそれ以外の時代の作品の人気は未だ継続している。このように若手・ベテラン・子女がそろって活躍し、アートによってもたらされる対話と問い掛けがこれほど必要になったのも今が初めて。現代はアメリカン・アートの最良の時期なのかもしれない。

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Text: Ryoko Oh

  • オー・玲子(ライター・リサーチャー)/学習院大学文学部哲学科美学美術史専攻卒。写真通信社、海外誌を中心にフォトリサーチャーとして勤務後、ライターとして活動。

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