特集 2017/8/26(土)
女性たちが支えたアメリカン・アートの歴史 Vol.5

1960年~80年代、アートで問題定義した女性たち

モダン~コンテンポラリーアートのなかで重要な様式や潮流を発信してきたアメリカン・アート。そこにはあらゆる方面で深く関わった女性たちがいた。今も変わらない男性優位の体制のなか、アートシーンを力強く開拓していった女性たちにフォーカスを当てる短期手中連載。最終回となる今回は、1960年代~80年代にアートで議論を巻き起こした女性芸術家たちを解説。

バーバラ・クルーガーによる、ヒーロー像を男性に求める価値観を表現した作品。

フェミニスト・アートが現代では「シュプリーム」の著作権問題に発展
 
バーバラ・クルーガーやジェニー・ホルツァーたちがかつて発したメッセージは、今この2017年という年に同じインパクトをもって、新たな形で世界に問題定義をしている。
 
クルーガーの代表作『Untitled (Your body is a battleground) 』は、1989年に堕胎の権利を争っておこなわれた「ロー対ウェイド事件」の最高裁判決を受けた全米女性同盟によるワシントンDCでのプロ・チョイス(女性が堕胎する権利を認める側)のデモ活動を支援するために制作された。
 
彼女独特のテキストのデザインと配置、つまり、赤のボックスにフーツラ・フォントとヘルベチカ・フォントを用いたあの有名すぎるもの。これを堂々と借用したブランドがあった。それが、あらゆるデザインを流用し商品を生み出してきた「シュプリーム」だ。同ブランドは1994年、ブランドロゴにクルーガーの作品を「借用」したことを全面的に認めたのだが、クルーガー自身がもともと“The Pictures Generation”と呼ばれる「アプロプリエーション(流用≒パクり)上等!」という姿勢をとったアーティスト。とくに騒ぐこともなく、「シュプリーム」に訴訟を起こすこともなく静観して終わった。おかげで現在もあの「Supreme」のロゴを使い続けることができている。

原宿に並んだ「シュプリーム」のポスター。Tシャツのロゴはバーバラー・クルーガーの“アプロプリエーション”。

Photo: Getty Images

ところが、もともとボックスロゴを用いて商品を作っていたパロディブランド「MTTM(Married to the MOB)」が「シュプリーム」のロゴを流用して「“Supreme Bitch”Tシャツ」を販売したことで訴訟問題に発展した。するとクルーガーは「本当にダサい人たちが、なんてバカバカしい騒動を起こしているのかしら。こんなことのために作品を作ってしまったとはね。彼らが私を著作権問題で訴えるのを待ってるわ」と皮肉を飛ばし一蹴。クルーガーのデザインだけでなく、さまざまなブランドや著名人をアプロプリエーション(流用、パクり)しておきながら、自分たちが同じことをされると訴える。そんな矛盾を痛烈に批判した。だが、つい最近、もともとフツーラフォントを使用している「ルイ・ヴィトン」が「シュプリーム」と“奇跡のコラボ”アイテムを発売。同じアプロプリエーションにおける著作権問題で同ブランドを訴えたことのある「ルイ・ヴィトン」が、かつて訴えた相手とともにコレクションを発表したことで話題をさらった。この件に関して、彼女は歓迎しているように見える。

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Text: Ryoko Oh

  • オー・玲子(ライター・リサーチャー)/学習院大学文学部哲学科美学美術史専攻卒。写真通信社、海外誌を中心にフォトリサーチャーとして勤務後、ライターとして活動。

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