インタビュー 2013/9/6(金)
世界が注目する旬の才能

この秋マスト! 究極のラブストーリー『わたしはロランス』グザヴィエ・ドラン監督にインタビュー

「僕は女になりたい」と恋人に打ち明けられたら? あるカップルの10年間にわたる“究極の愛”を描いたラブストーリー『わたしはロランス』が、いよいよ9月7日(土)公開。トランスジェンダーをテーマにしながらも、心を揺さぶる普遍的な愛の物語に昇華させたのは、カナダ出身の新鋭グザヴィエ・ドラン監督。あのガス・ヴァン・サント監督が太鼓判を押し、弱冠24歳にしてカンヌの常連、モデルとしても活躍するルックスをあわせもつ多彩な若き才能にクローズアップ!

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(c)Alexandre de Brabant

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「音楽こそが観客との究極の対話」

―ところで、この映画の時代設定を90年代にしたのはなぜですか?
ジェンダーにまつわるストーリーを語るのに、20世紀最後の10年には理想的な背景としての特徴が全て含まれているように思えたんだ。当時、ゲイ・コミュニティーに対する偏見も薄れ始め、エイズにまつわる排他的先入観もようやくおさまり始めていた。鉄のシャッターがあがったんだ。衝撃を経て社会は自由をまとい、何もかもが許される時代になった。
 
主人公のロランスがこの時代の高揚感に乗じてサバイバルを思いついたのは理にかなったことだけれど、当時、トランス・セクシュアリティはおそらく最後のタブーだったように思う。だからロランスは、“崩れる寸前だけどなかなか崩れない壁”にぶつかってしまうんだ。どんなに進歩的な人でさえ、町でトランスセクシュアルを見破れば、内心、得意げな気分になるし、LGBコミュニティーも第三の性には冷たい。僕から見れば、トランスセクシュアリティは、“差異”を表す究極の表現であり、1990年代とは、12年の時の流れを描く中で、社会が本当の意味でどれほど変わったのかを考察する絶好の機会を提示していたんだ。この作品は、この論議を提案しつつ、まだその表層をかすめているにすぎないよ。
 
―デュラン・デュランやザ・キュアーをはじめ、全編に渡って音楽がとても印象的に使われていました。音楽についてのこだわりを教えてください。
本作のような大河小説的作品では、音楽が単なるオプションということはありえないし、ましてや脇役でないのは確かだよ。美術、衣装、セリフ、ヘアスタイル、小道具などなど、俳優に直接関係してくるものはすべて偶発的で、正直なところ、演技次第で急変する。でも音楽に限れば、音楽はフィジカルなものではないし、撮影中に浮上することもなければ、誰にも服従しない。どんなプレッシャーにも状況にも動じないんだ。歌は登場人物の人生に寄り添う存在といえるね。登場人物たちに自分が何者かを思い出させ、彼らが愛した人々を喚起させる。忘れられた人々を忘却から呼び戻し、悲しみを和らげ、罪のない嘘、打ち捨てられた野望の数々を思い起こさせるんだ。
 
そして映画館では、それぞれの観客が音楽にまつわる個人的な思い出を、映画のために無意識に活用する。会ったこともない人物が作った映画が突然、まるで友人のようにいろんなことを観客に語りかけるんだ。これほど満ち足りたことはないよ。秘密にしていること、子供時代のこと、手放した夢、その歌を耳にしていた瞬間のこと。あの時、町を歩いていた、僕の自己主張の時代だった、信号が赤に変わる前に慌てて走っていた、母親のお葬式の日だった、秋に始まり秋に終わった短い恋に涙していた――歌はそんなことを思い出させてくれるんだ。音楽は映画の魂と言われるけれど、その理由は明らかだよ。音楽こそが観客との究極の対話なのだから。
 
>>監督が影響を受けたアート&映画については次ページで!

  • 『わたしはロランス』
    舞台はカナダのモントリオール。国語教師のロランスは、愛するガールフレンドのフレッドに「これまでの自分は偽りだった。僕は女になりたい」と秘密を打ち明ける。突然の告白に動揺し怒りをぶつけるフレッドだが、彼を受け入れ、共に人生を歩むことを決意する。しかし彼らを取り巻く周囲の偏見や好奇の目は、次第にふたりの関係を壊していき……。ある男女の10年に渡る愛の軌跡を描いた、激しくも切ないラブストーリー。主演のロランスを演じるのは、『ぼくを葬る』のメルヴィル・プポー。
     
    監督・脚本/グザヴィエ・ドラン
    出演/メルヴィル・プポー、スザンヌ・クレマン、ナタリー・バイ
    配給/アップリンク
    公式サイト/http://www.uplink.co.jp/laurence/
    2013年9月7日(土)~、新宿シネマカリテほか全国順次公開

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