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母と娘の間で起こりがちなこと

そして母と娘の間で起こりがちな問題が、この映画でも如実に描かれています。シャロン・ストーン演じるリンダの母親は娘に厳しくて、門限を破るとビンタしたりするわけですけど、彼女は若すぎる頃にリンダの姉を産んでいて、おそらく社会的な差別もあった。その孤独を救ってくれたのが夫、つまりリンダの父親で、その夫に対する罪悪感があって、だから娘をかつての自分のような“ふしだらな女”にしたくないという思いで、しつける。娘が自分と同じことをするから殴るわけですよ。娘に自分の姿を重ねているんです。
 
親が「お前のために」と言ってやることって、すべて親のエゴであり親のもってる“心の穴”なんです。世間に恥ずかしいとか、親が子に「こうなってくれ」「こうなってくれるな」と押し付けることは、同じ形の“心の穴”をあけることになって、子どもも生きづらくなるんですよ。だからなるべく自分の感情を子どもに押し付けないように、これから子どもを産む女性や子どもを育てていく人には、自分の子どもを自分の分身だとか、自分の人生をやり直させようとか、自分がダメだったところを娘にはそうならないようにとか、そういうふうに思わないでほしいんです。子どもへの怒りというのは、自分が正しいから怒ってるんじゃなくて、自分のエゴで腹を立てているから子どもに対して感情的になってるんだなって、わかっていてほしい。相手が絶対に逆らえない状況で行使される力は、どんなに教育的に見えても、それは虐待です。リンダの父親みたいに子どもに対して無関心・無表情なのもダメだけど。
 
映画ではチャックのDVを受けたリンダが母親に助けを求めるけど、拒否されるわけです。嫁に出した娘が帰って来ると恥ずかしいという感覚は、日本だけじゃなくアメリカのキリスト教の家庭にもあったんだね。「夫が暴力を振るうからって何だ、あたしだって耐えたんだから、あんたもがんばりなさい」って言われたら、娘は本当に行き場がないですよ。で、それは昔の話かというとそうじゃない、現代にだってたくさんある。
 
リンダはチャックからの洗脳が解けたあとに、新しい優しい旦那さんと子どもを得て、癒されるのにおそらく10年ぐらい時間がかかってるわけだけど、それを経てポルノ業界と元夫を告発したんだよね。憎しみが告発するっていう方向に動いた。だけど彼女のお母さんはそういう巨大なエネルギーにできなかったので、どこにでもいる平凡なお母さんとして娘を厳しくしつけた。多くの女の人が若い頃はああいうお母さんに育てられて、チャックみたいな男に恋をして、だけどああいう男は自分を幸せにしないって気づいて、そこまでひどくない男と結婚して子どもを産む。そして自分の子どもを“自分の若い頃”のようにさせまいとしつけると、娘は自分の若い頃よりもっとタチの悪いことをしたりして。 
 
この映画は暴力とかエロとかそこまで激しく描いていないので、むしろティーンエイジャーに教育的な見せ方ができるように作られているのかもしれないですね。映画って、きっかけになるから。恋愛している人も、子どもを育てている親も、なにかで自分の“心の穴”を埋めようとしている人が観たら、気づくことがあるでしょう。
 
最近、愛というものは描きづらいよね。この映画は“愛のない世界”を描いていて、前回紹介した『エヴァの告白』も、第2回の『パリ、ただよう花』も愛の不在の物語でした。“愛は人の心の中にあるんだ”っていう物語に説得力がない世の中だし、こういう“愛のない世界”を見せたほうが、かえって人は「私は愛せているのかな? じゃあ、どうすれば愛せるようになるだろうか? 愛って、なんだろうか?」って自分のこととして考えるようになるのかもしれない。
 
■今回の格言/恋は愛ではありません。恋とは危険な“どこかに連れていってもらいたい”中毒です。恋が苦しい人は、客観性をもって「自分の恋」を見つめてみましょう。

「【第5回】『ラヴレース』に見る、“恋愛中毒”の恐ろしさ」トップへ
  • 『ラヴレース』
    監督/ロブ・エプスタイン
    出演/アマンダ・サイフリッド、ピーター・サースガード、ハンク・アザリア、アダム・ブロディ、ジェームズ・フランコ
    配給/日活
    公式サイト/http://lovelace-movie.net/
    2014年3月1日(土)~、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
     
    (C)2012 LOVELACE PRODUCTIONS, INC.

  • 二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)も好評発売中。
    http://nimurahitoshi.net/

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