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恋とは“どこかに連れていってほしい”願望

チャックは最低の男だけど、リンダにとって最初はすごく魅力的な男性だった。恋って、相手が「いい人」だから魅力的に感じるわけではないですよね。今の自分の状態に納得のいっていない人間が“自分をどこかに連れていってくれる人や物”にしてしまうのが恋というものなんだと思う。まさにリンダにとってチャックはそうで、息の詰まる家庭環境から“刺激的なパーティ”に連れ出してくれたわけで。怪しげな宗教とか自己啓発とかに人がハマるのも、恋の一種だよね。
 
お金持ちが好きだとか、軽い感じの人が好きだっていうのも、どこかに連れていってほしいからなんだよね。今とは違う“別の景色”が見えるから。男が「あの女を幸せにすることで、今とは別の世界を見るぞ」っていうのが、ちょっと昔に作られた男の“がんばって生きるための幻想”だったわけだけど、最近の男にとっては結婚って“自分の可能性を狭めること”でしかないし、恋に恋してる男も多いから、なかなか恋愛が始まらない。女の人がすごい美人だと「そんな美人と、付き合える俺」みたいなのが男にとっての“別世界に連れていってもらえる”感にあたるのかもしれない。
 
女の人は男の側から恋されると、「じゃあ将来どうしよう、結婚どうしよう、いつまで働いて子どもはいつ産むの」とか、現実的な話になりますよね。それって現代の男にとって“どこかに連れていってもらえること”ではないんですよね。お父さんになることを夢見ていて、一人前になることに憧れている男、そういう男なら女性が現実的にふるまっても、ちゃんと女の人に恋すると思う。だけど現代の多くの男は、恋に恋しちゃうわけですよ。どういう恋かっていうと“空から降ってくる女の子”への恋。とつぜん美少女が目の前に現れて自分を勇者にしてくれる、っていうのが彼らが抱いている夢で、これは一概にアニメやゲームやインターネットの影響だけとは言えない。 世の中全体が、そういう方向になっている。
 
男も女も、自分を無限の可能性のある“どこか素晴らしい世界”に連れていってくれる人を待っていて、だけどそんな相手はどこにもいないから、男は恋愛ができないし、女はこの映画のチャックみたいな男に引っかかる。ああいう男は確かにどこかに連れていってはくれるんだけど、連れていかれる先はろくでもない世界。映画の中でも、出会ったころにチャックがリンダに夜の海辺で夢を語るシーンがあったけど、ああいう男にはご用心ですよ(笑)。初対面の飲み屋とか、二回目に会ったときのデートとかで“いい話”をする奴には注意したほうがいいと思いますね、本当に。 あと“ひと目惚れ”って女性にとっては絶対にヤバい。まさに自分の“心の弱点”が反応するのが、ひと目惚れなんだから。
 
だけど、わかっていてもしちゃうから、恋は恐ろしいね。アルコールとか麻薬とか、いろんな中毒があるけど、恋とセックスの中毒がいちばん怖いかもしれない。恋とは“どこかに連れていってもらいたい中毒”なんだってことを自分でわかった上でしていれば「あ、わたし今この男のことを好きになっているのはヤバいのかも」とは思えるかもしれないね。

「【第5回】『ラヴレース』に見る、“恋愛中毒”の恐ろしさ」トップへ
  • 『ラヴレース』
    監督/ロブ・エプスタイン
    出演/アマンダ・サイフリッド、ピーター・サースガード、ハンク・アザリア、アダム・ブロディ、ジェームズ・フランコ
    配給/日活
    公式サイト/http://lovelace-movie.net/
    2014年3月1日(土)~、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
     
    (C)2012 LOVELACE PRODUCTIONS, INC.

  • 二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)も好評発売中。
    http://nimurahitoshi.net/

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