特集 2014/11/5(水)
二村ヒトシの映画でラブ&セックス考

【第13回】『紙の月』に見る、女の人生における“私”という意識

『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』『すべてはモテるためである』などの著書で恋愛とモテについて説き、アダルトビデオ監督としてあくまで女性目線での作品づくりに定評がある“女性と性”のエキスパート、二村ヒトシさん。そんな二村さんが毎月1回、新作映画からラブ&セックスを読み解く連載。第13回は、宮沢りえが横領に手を染めていく平凡な主婦を演じる『紙の月』を斬る!

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(C)2014「紙の月」製作委員会

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年下の男性にスポイルは禁物!

梨花は大学生の光太(池松壮亮)と体を重ね、学費のために借金をしている彼を「助けてあげたい」と同情してしまったことから犯罪に手を染めていくわけですが、それで破滅していく展開かと思ったら(詳しくはネタバレになるので書けませんが)彼女の魂は堕落も破滅もしません。
 
この映画が面白いのは、あらすじだけを書くと「若い男とのセックスに狂い、大金を掴んで贅沢な消費に狂っていく平凡な主婦」なんですけど、そして実際にストーリーはそのように進むんですけど、最終的に描かれているのは全然そんなことじゃないというところです。
 
むしろ彼女の“施し”によって堕落し、ダメな人間になっていくのは光太です。最初は好青年だったのに、梨花に甘やかされ続けた結果、自分に才能があると思っちゃったんでしょう。最新のPCを買ってもらった途端に「起業する」とか言い出して。ああ、こういう馬鹿、よくいる……。野心(その本性は劣等感だったのかもしれません)を隠しもっていた年下の男が、年上のお姉さんに可愛がられて「自分は、いっぱしの男だ」と思って、まだ何も仕事をしていないのに、キモいオッサンたちと同じように偉そうになっていく。梨花は、まるでお母さんのように優しくしてあげることで、彼をスポイルしてしまったんです。
 
「スポイルする」って何でしょう。それは、愛しているように見えるけれども相手を人間として扱っていないということです。
 
梨花の夫(田辺誠一)が梨花をスポイルしてるのと同じです。夫は夫なりに梨花を愛していますが、言動に「働きたかったら働いてもいいけれど、その前にまず、おまえは僕の妻なんだぞ」ってメッセージが常に出ている。悪意はないんだけど、彼が無意識にもっている男尊女卑の気持ちが、梨花を侮辱し続けています。
 
そして梨花は我慢をし続けています。もっと早い時期に、夫に「侮辱しないで」と言えれば良かったのに。事件を起こしてしまった後でも、光太に「そういう態度は、しないで」と言えれば良かったのに。

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  • 二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(文庫ぎんが堂刊)も好評発売中。
    http://nimurahitoshi.net/

  • 『紙の月』
    監督/吉田大八
    出演/宮沢りえ、池松壮亮、大島優子、田辺誠一、近藤芳正、石橋蓮司、小林聡美
    配給/松竹
    公式サイト/http://kaminotsuki.jp
    2014年11月15日(土)~、全国ロードショー

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