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Photo courtesy of Warner Bros. Pictures

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人を人たらしめるのは“共感”

監督が想定したこの映画の舞台が、我々の現実の10年後なのか、はたまた2年後なのかわかりませんが、登場人物たちは全員、観る者にとって他人事ではない孤独と問題を抱えています。セオドアと同じマンションに住む友人エイミーの夫も悪い人じゃないんだけど、いちいち一言多い。エイミーの心に共感しようとせず分析をして、「僕はこう考える」だけを言う。まさに“インチキ自己肯定”している男。人と会話ができない人間なんです。他者が存在していない、相手とコミットできない人。それは愛に飢えているキャサリンも同じです。
 
そんなダメな人間たちを尻目に、機械のなかに作られた人格であるサマンサは、どんどん人間らしくなっていきます。セオドアは生身の女の人に臆病になってるから、サマンサにばかり話しかける。サマンサのほうはセオドアが元妻と会ったことに嫉妬したり、自分に肉体がないことを負い目に感じて「私にできることは何?」と問いかけたり。そしてふたりはついに、コンピューターと人間という一線を越えて、愛に満ちたセックスまでしてしまう。人って、産まれたときから人間なんじゃなくて、人間として扱われることで人間になっていくんだな、と気づかされます。それに比べてキャサリンやエイミーの夫がやってることは……。
 
すごく当たり前のことを言いますけど、優しさや親しみが心に湧くのも、逆に自分が愛を乞うだけで人の気持ちがわからないエゴイストになってしまうのも、うわべだけの感情を自分で愛だと思いこんでしまうのも、「私」があるからなんですね。最初のサマンサがなぜあんなにお母さんみたいかというと、まだ「私」がないから。セオドアが弱さをみせたりすることでサマンサはどんどん学習して、育っていく。それは人間の赤ちゃんと同じです。愛されることや傷つくことで「私」が生まれて大人になる。
 
他人って、そこにいるだけでは本当に「生きている」のかどうか、わからない。でも、たとえば相手が泣くとこっちも泣けてくることがある。相手が何をされたらいちばん嬉しいのかが、わかることがある。それは感情に共感するからじゃないでしょうか。

「【第9回】『her/世界でひとつの彼女』、恋する相手を受け入れる“共感”の力」トップへ
  • 二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(文庫ぎんが堂刊)も好評発売中。
    http://nimurahitoshi.net/

  • 『her/世界でひとつの彼女』
    監督・脚本/スパイク・ジョーンズ
    出演/ホアキン・フェニックス、エイミー・アダムス、ルーニー・マーラ、オリヴィア・ワイルド
    声の出演/スカーレット・ヨハンソン
    配給/アスミック・エース
    公式サイト/http://her.asmik-ace.co.jp/
    2014年6月28日(土)~、新宿ピカデリーほか全国ロードショー

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