>
<

Photo courtesy of Warner Bros. Pictures

1/3

相手にコミットできない人間の孤独

そう遠くない未来のLAを舞台に、人工知能型OSと恋に落ちる男のラブストーリーです。ホアキン・フェニックス演じる主人公セオドアは、他人の手紙の代筆をする会社に務めています。人を感動させる文章は書けるけど、本人は恋愛をしても女性に心を開けないタイプの男。ルーニー・マーラ演じる妻との結婚生活が破綻して、孤独な日々を過ごしている。そんなときにふと広告を目にして手に入れたのが「あなたのパソコンが人格と個性を持つ」というふれこみの、会話ができる人工知能型OS。いくつかの質問に答えていくと、あっという間にセオドアのプロフィールと性格のパターンを読んで、最適化されたOSが起動。そこで誕生したのが、スカーレット・ヨハンソンが声を演じる“サマンサ”です。彼女(?)は初め、PC内のデータの整理をしてくれたり、まるでお母さんみたいにセオドアの世話を焼いてくれる。そしてセオドアと会話をしていくうちに、すごい速さで人間の心の機微を学習していき、次第に“サマンサらしく”なっていきます。
 
セオドアはサマンサをインストールする前に、手軽な出会い系で見ず知らずの女性とテレフォンセックスをしてたりするんだけど、相手からいきなり奇妙で勝手な欲望をぶつけられて面食らうシーンがあります。現実の社会でも、インターネットの発達で出会いの機会も増えましたが、相手がどんな人間なのか理解できてないうちは、こちらの欲求の出し方も、相手の欲望の受けとめ方も、難しいものですよね。
 
セオドアは友達に紹介された美女とデートもするんだけど、そこでもまたセオドアを萎えさせる出来事が起きる。美女は「次に恋愛した人とは絶対に結婚したい」と思いつめているから積極的ですが、セオドアがちょっとした違和感や「関係を急ぎたくない」という屈託を持っているのがわかると「キモい」といって彼を拒絶する。彼女は長い間ずっと傷ついてきた女性、だけど彼女には自分のことしか見えていない。
 
セオドアと別居中の妻キャサリンも、離婚届へのサインを要求しながら、彼にダブルバインドをかける。「別れて」という気持ちと「見捨てないで」という気持ち。もちろんどちらも本心です。彼女はセオドアの言葉尻をとらえてはヒステリーを起こしますが、結婚していたときからずっと、「誰も自分をわかってくれない」という怒りや心の穴を抱えていたんでしょう。彼女は成功した小説家で収入も多く、セオドアは無名のライターです。彼女の大きな心の穴は、寄り添えなかったという罪悪感をセオドアに抱かせ、だから彼は自分自身を縛りつけて作家として世に出られないでいる。キャサリンも両親との関係に傷つけられて病んだ“被害者”なんだけど、その呪いにかかったセオドアの脳裏には、キャサリンとの切なく美しい思い出が浮かぶばかりです。

「【第9回】『her/世界でひとつの彼女』、恋する相手を受け入れる“共感”の力」トップへ
  • 二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(文庫ぎんが堂刊)も好評発売中。
    http://nimurahitoshi.net/

  • 『her/世界でひとつの彼女』
    監督・脚本/スパイク・ジョーンズ
    出演/ホアキン・フェニックス、エイミー・アダムス、ルーニー・マーラ、オリヴィア・ワイルド
    声の出演/スカーレット・ヨハンソン
    配給/アスミック・エース
    公式サイト/http://her.asmik-ace.co.jp/
    2014年6月28日(土)~、新宿ピカデリーほか全国ロードショー

MORE TOPICS

SHARE THIS ARTICLES

前の記事へ特集一覧へ次の記事へ

CONNECT WITH ELLE

エル・メール(無料)

メールアドレスを入力してください

ご登録ありがとうございました。

ELLE CLUB

ようこそゲストさん

ELLE CLUB

ようこそゲストさん
ログアウト