特集
2018/04/02(月)
短期集中連載:広告とジェンダー

今、広告炎上はテクノロジーが防ぐ

なぜ女性を描く広告はしょっちゅう炎上するのか? 世界最大の広告会社グループWPPの中核企業、ジェイ・ウォルター・トンプソンでブランド・コミュニケーション戦略をリードする大橋久美子さんが解説する最終回は、ジェンダー問題の解決を人間ではなくテクノロジーが担っている理由を解説。

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HBO制作の黒人女性が主役の“悩めるアラサー女子ドラマ”「Insecure」主演のイッサ・レイ。主役の職業をNPO職員と弁護士にするなど、“悩める女子ドラマ”のステレオタイプを覆している。

Photo: Insecure. Courtesy of HBO/Justina Mintz

広告を大切にする企業は消費者の偏見に迎合しない

以前に書いたとおり、偏見というのは身体化されており、往々にして無意識のうちに判断基準に埋め込まれます。偏見だと認識せず潜在意識に取り込まれるからこそ、人間は自分の考え方や知識の何が偏見で、何が偏見でないのかを判断することは難しい。さらにいえばそんな人間の集まりが組織として抱えている差別やジェンダーバイアスの問題を、内部から客観的にチェック機能が働くことはとてつもなく難しい。ASAのジェンダーのステレオタイプを排除する新基準を遵守するためには、人間ではないテクノロジーやテストという“機械的な”客観性をあえて導入する必要性が出てきている、上記はそのニーズにこたえるツールなのでしょう。

 
ASAの新基準導入に先駆け「ユニリーバ」は、世界で展開する自社の1000の広告をテクノロジーで分析したところ、ステレオタイプな表現が50%、女性を知的な存在として表現していたのはわずか2%、リーダーとして描いていたのは3%だと結論づけました。そしてどうしたか? 自社広告からステレオタイプ表現を排除することを宣言したのです。

https://www.youtube.com/watch?v=AmtH-RXpQvA

(↑男性の香りと性的魅力を結びつけるこれまでの男性化粧品広告を覆すかのような“AXE”カナダ版CMでは、“男らしさ”のダイバーシティも表現している)
 
それに基づき同社は早速、マチズモを感じさせる性的な暗喩で人気のあった男性用デオドラント“AXE”の広告イメージを、思春期の男性の抱えるリアルな内的葛藤を解決しエンパワーする“Find your magic”という新しい広告キャンペーンへと変化させています。「使えばモテる・ヤれる」とでも言うかのような“AXE”の広告表現がこれまでに得てきた世界的人気を考えると大英断であったと思いますが、新しいキャンペーンはとても好評とのこと。

あわせてユニリーバは、「より先見性ある広告こそが消費者から支持されビジネスの成果にも結びつく」「広告は新しい文化を生み出す力があり、その変化を牽引するのが我々の責務である」という信念を表明。この動きには「いま現在の消費者の思考回路に迎合するのでなく、世界をもっと良い場所にしていくために広告の力を使いたい」という努力、「広告は新しい時代を牽引していくことができる」と信じる意志を感じさせられます。

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  • 大橋久美子/J・ウォルター・トンプソン・ジャパン 戦略プランニング本部長。東京大学文学部社会学科卒、博報堂マーケティング局、研究開発局を経て、2003年J・ウォルター・トンプソン・ジャパンに入社。広告業界で25年、アジアや日本の女性たちと向き合いながら、女性たちを輝かせるためのブランディングを行う。

    ※当該記事の内容は個人的な見解であり、会社の見解を反映するものではありません

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