今、広告炎上はテクノロジーが防ぐ
なぜ女性を描く広告はしょっちゅう炎上するのか? 世界最大の広告会社グループWPPの中核企業、ジェイ・ウォルター・トンプソンでブランド・コミュニケーション戦略をリードする大橋久美子さんが解説する最終回は、ジェンダー問題の解決を人間ではなくテクノロジーが担っている理由を解説。
炎上をテクノロジーで防ぐ
これまでジェンダー感覚への鈍感さや無自覚で起こる炎上について説明してきましたが、現在広告やエンターテインメントではそれらを自動的にチェックし回避するテクノロジーが生まれています。J. ウォルター・トンプソンのイノーベーション・グループが毎年発刊しているグローバルトレンド研究「THE FUTURE 100」。2018年版の中の「08.エンタメにおけるデータ民主主義」でも、コンテンツ内の無意識の偏見の可能性を排除するようなツールの登場を示唆しました。取り上げたのは、ハリウッド女優ジーナ・デイヴィスが主宰する、メディア上での女性の描かれ方をリサーチする団体「ジーナ・デイヴィス・インスティテュート(Geena Davis Institute on Gender in Media)」で開発されたツール、GD-IQ。このツールはビジュアルや音声を同時に分析し、映画・広告などコンテンツのなかでのジェンダーの表現方法の“問題点”を自動的に発見することができるというもの。このツールを使用した結果、映画や広告に出てきている女性の割合は(画面上も音声上も)男性に比べて圧倒的に少ないということが判明しました。つまりこれが示唆するものは、作り手が無意識のうちに女性を無視、もしくは目にする女性と男性の不均衡を無視しているということです。
また、今年の国際女性デーにあわせて、英国の動画配信プラットフォーム企業であるアンルーリー(Unruly)社では、男女のステレオタイプを判断するUnruly Maxというテストを開発したことを発表しました。これは前々回にご紹介した英国の広告基準協議会(ASA)の基準に照らして分析し、自動的に警告を出すというものです。アンケート調査もあわせて行い、対象者の表情や回答を通じてステレオタイプ度の高さやそれによるネガティブ感情喚起度も分析します。
「機械に表現方法を判断させるなんて」という意見もあるでしょう。ですが、機械に判断させたほうがいい理由があります。
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大橋久美子/J・ウォルター・トンプソン・ジャパン 戦略プランニング本部長。東京大学文学部社会学科卒、博報堂マーケティング局、研究開発局を経て、2003年J・ウォルター・トンプソン・ジャパンに入社。広告業界で25年、アジアや日本の女性たちと向き合いながら、女性たちを輝かせるためのブランディングを行う。
※当該記事の内容は個人的な見解であり、会社の見解を反映するものではありません