よかれと思って炎上する広告にちらつく「あたしおかあさんだから」
2018/03/23(金)
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子育てが母親の多大なる犠牲のうえに成立する事実を美談で片づけることは、「母の犠牲」を繰り返し聞かされてきた子どもにとっても将来のプレッシャーになる。

Photo: Getty Images

強がりを本音だと勘違いする非当事者が広告を炎上させる

今回の「あたしおかあさんだから」を作詞した方は、お母さんたちにずいぶんインタビューしてお母さんの心の奥底を理解したと思っていた。でも、そこでインサイトだと思った発見は多くの人にとってインサイトではなかったのです。
 
「(毎日子育てはつらいけど)大変さ以上の喜びがある」―――。きっとインタビューしたお母さんの多くが、子育てをひとりで背負う大変さ・苦労話と、それを忘れさせてくれるほどの母親としての喜びについて語ったのだと思います。もちろんその喜びは間違いなくそうなのですが、本当にお母さんたちは自己犠牲に納得していたのでしょうか。あの歌に歌われていたようにその犠牲が洋服や夜遊びならまだしも(とはいえ夫は諦めていないケースが多いですが)、今の女性たちの本当の葛藤は、重ねたはずのキャリアの中断や、読書や映画鑑賞や趣味などなど些細に見えて実は大切な社会人としてのインプットを諦めなければいけないことだと思います。そして諦めなければならないことに対して納得できていないけれど、その状況を自分で受け入れるためにも喜びの方が大きいのだと、自分にも言い聞かせるように発言することも多いのではないでしょうか。そうなると、納得できていない気持ちの方が「本当のインサイト」。なのにそう口にしたからと第三者に強調されたら当然、「違うんだよ、確かにそうなんだけど、でもそうじゃないんだよ」と憤懣の声があがるのもいたしかたないことです。
 
自分を納得させるために言っている論理、それはひとりごとだったり、女性同士で言う合うなど当事者発信ならいいのですが、その論理をインサイトだと勘違いした第三者、企業や有名人が応援歌のように使って、しかも広告にしてしまったら「良かれと思ったのに炎上」するのは当然です。今回の「あたしおかあさんだから」はそのことを教えてくれるケースでした。そして私自身のことを言えば、ジェンダーに関わる広告においてインサイトだと思ったことが本当にインサイトなのか? ということについてもっともっと厳しく掘り下げていこうと自戒させられたケースでした。では、こういったジェンダーで炎上する広告を減らすために、どういった防御策が考えられているのか。次回は海外の最新事例を紹介します。

Text: Kumiko Ohashi

  • 大橋久美子/J・ウォルター・トンプソン・ジャパン 戦略プランニング本部長。東京大学文学部社会学科卒、博報堂マーケティング局、研究開発局を経て、2003年J・ウォルター・トンプソン・ジャパンに入社。広告業界で25年、アジアや日本の女性たちと向き合いながら、女性たちを輝かせるためのブランディングを行う。

    ※当該記事の内容は個人的な見解であり、会社の見解を反映するものではありません

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