AIDSをめぐる言葉の戦場──なぜ先進国で日本だけがAIDS禍を克服できないのか
2018/03/27(火)
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エイズで亡くなった初めてのスターと言われているロック・ハドソン(Rock Hudson)とエイズ財団を設立し、患者への支援活動を行っていた親友、エリザベス・テイラー(Elizabeth Taylor) Photo: Getty Images

女性たちの言葉の力が繋ぐもの

「同性愛嫌悪を克服しつつある」と書きましたが、実はAIDS禍において、ゲイ男性たちを支えた女性たちの役割はとても大きなものでした。アメリカの美男俳優ロック・ハドソンがAIDSで死んでゲイだったとわかった時にAIDS差別、ゲイ差別の不当さを最も強く訴えたのは親友の大女優エリザベス・テイラーでした。AIDS差別、ゲイ差別をする人たちは往往にして女性差別をも厭わない男たちの、内心の女性嫌悪者たちであることが分かり始めていたからです。  

男たちのこの内心の女性嫌悪は男性優位の信念から生まれています。その意味で女性嫌悪と同性愛嫌悪は実は根っこが同じです。前述の「#MeToo」運動は、そんな女性嫌悪=女性虐待の異性愛男たちに、もっときちんと女性を愛せる「真っ当な男」になってくれと訴える運動です。

女性たちが男たちを変える。憎悪と差別の構造が変わる。愛するひとにHIVも他の性感染症もうつしたくないと思う社会ができる──『BPM ビート・パー・ミニット』から「#MeToo」へと繋がる社会変革のカギは、時間がかかろうとも女性たちの言葉の力にかかっているのだと信じています。

text: Yuji Kitamaru

  • 北丸雄二/ジャーナリスト、コラムニスト、小説家、翻訳家。NY支局長として在籍した東京新聞(中日新聞)を退社後、独立。TBSやFM TOKYO、大阪MBSなどでラジオ・コメンテーターやニュース解説者としても出演。NYに住んで24年、90年代にはNYの「アクトアップ」の動向を間近で目撃。2018年からは東京を拠点に活動中。Twitter: @quitamarco

  • (C)Celine Nieszawerline

    『BPM ビート・パー・ミニット』 ロバン・カンピヨ監督
    舞台は1990年代初めのパリ。エイズの治療はまだ発展途上で、誤った知識や偏見をもたれていた。「アクトアップ・パリ」のメンバーたちは、新薬の研究成果を出し渋る製薬会社への襲撃や高校の教室に侵入し、コンドームの使用を訴えたり、ゲイ・プライド・パレードへ参加するなどの活動を通し、AIDS患者やHIV感染者への差別や不当な扱いに対して抗議活動を行っていた。行動派のメンバーであるショーンは、HIV陰性だが活動に参加し始めたナタンと恋に落ちる。しかし、徐々にショーンはエイズの症状が顕在化し、次第に「アクトアップ」のリーダー・チボーやメンバーたちに対して批判的な態度を取り始めていく。そんなショーンをナタンは献身的に介護するが…。2018年3月24日(土)よりヒューマントラスシネ有楽町、新宿武蔵野館、ユーロスペースほか全国ロードショー。
    http://bpm-movie.jp/

  • 「アクトアップ(ACT UP)」とは?
    正式名称:the AIDS Coalition to Unleash Power=力を解き放つためのエイズ連合
    「アクトアップ・ニューヨーク」は1987年3月にニューヨークで発足したエイズ・アクティビストの団体。エイズ政策に感染者の声を反映させることに力を入れ、差別や不当な扱いに抗議して、政府、製薬会社などに対しデモなどの直接行動に訴えることもしばしばある。現在は全米各地やフランス、インド、ネパールなどにもアクトアップが作られている。

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