AIDSをめぐる言葉の戦場──なぜ先進国で日本だけがAIDS禍を克服できないのか
2018/03/27(火)
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2017年12月1日、世界エイズデーのイベントに登壇したクリントン元大統領。 Photo: Getty

日本国内で感染者が増える背景

なぜ先進国中での例外がここ日本で起きているのでしょうか?

実はアメリカでもアフリカ系やヒスパニック系コミュニティの間で若いHIV感染者が減らない/増える、という事態が起きています。なぜか? アフリカ系には厳格な福音派プロテスタントの信者が多く、ヒスパニック系ではカトリックの影響が強い。AIDS禍のピークを終えて、この病気の恐ろしさを忘れている最近の風潮があるところにそんなキリスト教的な性的タブーや同性愛嫌悪が対応を遅らせるという事態が重なり、さらにそこに貧困が原因でもある麻薬禍が影を落としている、その結果だと言われています。

日本の場合、宗教的タブーや麻薬の影響は少ないとされますが、「性」に関してあまり公に話をしないという「伝統」は続いています。それは元々は儒教的な家族制度の伝統の中で培われてきたものなのですが、普段はそれをそんなに意識もしていません。けれど「性」を語ることを一概に下品だとかはしたないとかと思ってしまう心性は社会心理の底流に確実に流れています。なぜなら「性」は独占的に家父長やそれに準ずる者たち、すなわち「家」の維持を担う男たちの私物だったからです。極論を言えば、そこでは下品でもはしたなくもないはずの「科学としての性」ですら、女性たちには分け与えられなかったのです。

text: Yuji Kitamaru

  • 北丸雄二/ジャーナリスト、コラムニスト、小説家、翻訳家。NY支局長として在籍した東京新聞(中日新聞)を退社後、独立。TBSやFM TOKYO、大阪MBSなどでラジオ・コメンテーターやニュース解説者としても出演。NYに住んで24年、90年代にはNYの「アクトアップ」の動向を間近で目撃。2018年からは東京を拠点に活動中。Twitter: @quitamarco

  • (C)Celine Nieszawerline

    『BPM ビート・パー・ミニット』 ロバン・カンピヨ監督
    舞台は1990年代初めのパリ。エイズの治療はまだ発展途上で、誤った知識や偏見をもたれていた。「アクトアップ・パリ」のメンバーたちは、新薬の研究成果を出し渋る製薬会社への襲撃や高校の教室に侵入し、コンドームの使用を訴えたり、ゲイ・プライド・パレードへ参加するなどの活動を通し、AIDS患者やHIV感染者への差別や不当な扱いに対して抗議活動を行っていた。行動派のメンバーであるショーンは、HIV陰性だが活動に参加し始めたナタンと恋に落ちる。しかし、徐々にショーンはエイズの症状が顕在化し、次第に「アクトアップ」のリーダー・チボーやメンバーたちに対して批判的な態度を取り始めていく。そんなショーンをナタンは献身的に介護するが…。2018年3月24日(土)よりヒューマントラスシネ有楽町、新宿武蔵野館、ユーロスペースほか全国ロードショー。
    http://bpm-movie.jp/

  • 「アクトアップ(ACT UP)」とは?
    正式名称:the AIDS Coalition to Unleash Power=力を解き放つためのエイズ連合
    「アクトアップ・ニューヨーク」は1987年3月にニューヨークで発足したエイズ・アクティビストの団体。エイズ政策に感染者の声を反映させることに力を入れ、差別や不当な扱いに抗議して、政府、製薬会社などに対しデモなどの直接行動に訴えることもしばしばある。現在は全米各地やフランス、インド、ネパールなどにもアクトアップが作られている。

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