『ザ・スクエア 思いやりの聖域』リューベン・オストルンド監督インタビュー!
2018/04/27(金)
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映画『ザ・スクエア 思いやりの聖域』より

「ディナー会場のシーンで描いたのは“傍観者効果”です」

――映画の中には皮肉を感じさせる描写も。例えば、展示として設置された“スクエア”の中にいる人は助けるのに、劇中登場するホームレスには誰も手を差し伸べない姿が描かれています。
誰もが平等の権利と義務がある、という“スクエア”に記されていることは、ある意味で社会がそうあるべきという思想です。でも、本当は“スクエア”なんていらないのです。“スクエア”を作ることで、その外側にいる人も生まれるということを示すため、意図的に彼らを登場させています。実はスウェーデンにおいてホームレスという現象は、2005年頃からはじまった比較的新しいものなんです。彼らの前を歩く時に私がとても無力だと感じるのは、たとえ幾許かの小銭を渡したところで生活が根本的には変わらないからです。

――映画中盤、ディナー会場にパフォーマンスアーティストが乱入して混乱をきたす場面があります。海外ではポスターのデザインにもなっているこのくだりでは、人々の居心地の悪さだけでなく、人々が無関心であるがために引き起こされる不寛容さのメカニズムを解体してみせている白眉のシーンです。
誰かひとりが異議を唱えはじめたことをきっかけに、突如として相手を誰も彼もが叩きはじめるという姿は、奇しくもインターネットにおける人々の行動に似ていますよね。あの場面でパフォーマンスアーティストは、野生の動物としてディナー会場に入場します。彼には文化的なものが何もないという状態ですが、一方で豪勢なディナーを食べている人たちはとても文化的だといえます。しかし、そこに野生的なものが入って来ると、彼らも文化的な振る舞いを忘れて野生のようになってしまうということを見せたかった。これは、公共の場で多くの人がいればいるほど、好ましくない行為が行われていることに対するリアクションにかかる時間が長くなるという“傍観者効果”を意図しています。この社会学的なアプローチは、私が映画を作る上で常にやっていることで、それは行動学にも基づいています。

――劇中、ヨーヨー・マとボビー・マクファーリンによるJ.S.バッハの『アヴェ・マリア』が印象的に使われていますね。
私は物事に対してユーモアな観点で見るということを心掛けています。例えば、悲劇の中でも人間がいかに愚かであるかを見せるということは、過去の作品でもやっていることです。『アヴェ・マリア』にボビーの声が入っていることでユーモアを感じさせるだけでなく、曲のセンチメンタル度が減るという効果を感じたのも映画で使った理由です。

text: Takeo Matsuzaki  Photo: © 2017 Plattform Produktion AB / Société Parisienne de Production /Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS, Aflo, Getty Images

  • 松崎健夫(まつざき・たけお)

    映画評論家。『キネマ旬報』などに寄稿し、『WOWOWぷらすと』『ZIP!』『japanぐる〜ヴ』に出演中。共著『現代映画用語事典』ほか。

  • 『ザ・スクエア 思いやりの聖域』
    監督・脚本:リューベン・オストルンド
    出演:クレス・バング、エリザベス・モス、ドミニク・ウェスト、テリー・ノタリー他
    配給:トランスフォーマー  
    4月28日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマ、立川シネマシティ他 全国順次公開
    http://www.transformer.co.jp/m/thesquare/

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