「スクエア=人道的な聖域を、視覚化したかった」
――『ザ・スクエア 思いやりの聖域』は、主人公・クリスティアンのインタビュー場面からはじまる。ところが、映画のファーストカットはクリスティアンがうたた寝をしている姿。なぜ、インタビューを受けている姿からではなく、あえてうたた寝している姿を最初に映していた理由は?
たぶん彼は、夜遅くまで何か仕事をしていて、二日酔いになった。つまり、ファミリーマンではないということを見せたかったのです。そういうライフスタイルの男の話だと思わせておいて、映画の後半に彼の子供たちを登場させるという意外性を持ってくることでコントラストを表現しました。『クリスティアン!クリスティアン!』と扉をノックする音で映画が始まりますよね。その時にクリスティアンと同じように観客も“目覚める”ことで、映画の世界へいざなっています。監督として『これはいいアイディアだな』と自画自賛しています(笑)
――タイトルにもなっている「スクエア」=「正方形/四角形」のアイディアは、オストルンド監督とプロデューサーのカッレ・ボーマンのアート展示に由来します。街の広場(スクエア)に設置された四角形(スクエア)の枠内では全ての人に平等な権利と義務が与えられるという人道的な聖域として設置された。実は映画のスクリーンも四角形 =“スクエア”であり、劇中ではその画面の外側から女性の叫び声や赤ちゃんの泣き声が聞こえてくる。観客はスクリーンの中の出来事を目撃しているが、その“外側”にも注視すべきではないかと訴えているようにも見えました。
これまで何度か同じ指摘を受けたことがあります。私の中で、“スクエア”を通りに置くことというのは、“スクエア”という状態が露出され、視覚化されることに何か共感する部分があった。一方で、スクリーンに映し出されていない人の<声>が聞こえることで、観客の想像力をかき立てようと思いました。
――例えば、電話をかけるクリスティアンの姿が四角い窓枠の中に映し出されているなど、映画の中にいくつか“スクエア”のイメージを散見できました。
タイトルが“スクエア”なので、色んなところに“スクエア”を見つけてしまうということはあると思います。シンボル的に使ったのはチアリーディングの場面。社会に対する隠喩にできないかと考えました。チアリーディングは“スクエア”の中でお互いが信頼し、助け合ってパフォーマンスを行うものですよね。実は私の娘がチアリーダーをやっていて、最初は『あんなアメリカ的なもの!』と偏見を持っていたのです。しかし、練習や試合を観に行くうちに、全員が協力する姿が美しいと感じるようになりました。それが“スクエア”の中で行われているということは意図されたものです。次回作は『TRIANGLE OF SADNESS』というタイトルなんですが、そうすると自分でも日常生活の中で“TRIANGLE”=“三角形”を探すようになる(笑)だからといって“幾何学シリーズ”をやるつもりではなくて、それもたまたまなんですよ。
text: Takeo Matsuzaki Photo: © 2017 Plattform Produktion AB / Société Parisienne de Production /Essential Filmproduktion GmbH / Coproduction Office ApS, Aflo, Getty Images
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松崎健夫(まつざき・たけお)
映画評論家。『キネマ旬報』などに寄稿し、『WOWOWぷらすと』『ZIP!』『japanぐる〜ヴ』に出演中。共著『現代映画用語事典』ほか。
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『ザ・スクエア 思いやりの聖域』
監督・脚本:リューベン・オストルンド
出演:クレス・バング、エリザベス・モス、ドミニク・ウェスト、テリー・ノタリー他
配給:トランスフォーマー
4月28日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamura ル・シネマ、立川シネマシティ他 全国順次公開
http://www.transformer.co.jp/m/thesquare/