結論:今年のオスカーを読み解く、3つのキーワードとは?
第90回アカデミー賞のノミネーション予想では、<多様性>と<地方>そして<女性>という3つのキーワードが挙げられる。
<多様性>は、民族や人種、宗教や性別による差別をなくしてゆこうという昨今の社会的潮流によるもの。アカデミー賞では『それでも夜は明ける』(13)や『ムーンライト』で黒人に対する偏見や差別を是正してゆこうという気運が作品賞をもたらした。また『ムーンライト』は、それまでハリウッドがなかなか評価しなかったLGBTの問題を描いていることでも特筆すべき点がある。また2010年以降のアカデミー監督賞は、アメリカ人以外、あるいは、アメリカ国内ではマイノリティに属する人たちで占められていたことも指摘できる。
<多様性>の問題は『スリー・ビルボード』や『君の名前で僕を呼んで』でも描かれているが、『シェイプ・オブ・ウォーター』は異生物との恋愛を描くというトリッキーな内容ながら、全編が<多様性>に対するメタファーにもなっている。
<地方>というキーワードは、『スリー・ビルボード』や『レディ・バード』に言及できるが、「もはや都会には描くべきものがない」と言わんばかりに地方の田舎町を“世界の縮図”のような形で描いているという共通点がある。このことは、アメリカの地方都市が経済的にも文化的にも疲弊していることと無縁ではない。現在のアメリカにおいては、都会の問題よりも地方の身近な問題の方が切実であることを『ムーンライト』でも描いていたが、その傾向は今年も続いている。
最後に<女性>というキーワード。実は昨今、アメリカでは女性を主役にした映画の製作本数が増えている。そして、それらの作品の中では共通して“より強い女性像”が描かれている。大ヒットした『ワンダーウーマン』(17)はその好例で、監督がパティ・ジェンキンスという女性監督である点にも表れている。
さらに『アトミック・ブロンド』(17)のシャーリーズ・セロン、『チェイサー』(17)のハル・ベリー、『シンクロナイズドモンスター』(16)アン・ハサウェイらアカデミー賞を受賞してきた歴代の女優たちが、自ら製作や製作総指揮を買って出て“より強い女性像”を積極的に演じているのだ。映画が“より強い女性像”を描くことと、例えば国際的にも政界のトップに女性が就任しているという傾向とも無縁とは言えない。
『スリー・ビルボード』も『シェイプ・オブ・ウォーター』も『レディ・バード』も女性が主役の映画だ。2016年のアカデミー作品賞候補では『ドリーム』(16)と『メッセージ』(16)の2本、2015年も『ルーム』(15)と『ブルックリン』の2本が女性主役の映画だったが、2014年は0本であった。
2018年1月21日に開催される全米映画俳優組合賞の授賞式は、司会がクリステン・ベルで、プレゼンターは全員女性であると発表されたばかり。アカデミー賞もこの傾向に倣うことは間違いなく、<女性>の活躍は第90回アカデミー賞で一番の注目ポイントになるのではないだろうか。
text: Takeo Matsuzaki photo: AFLO, GETTY IMAGES
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松崎健夫(まつざき・たけお)
映画評論家。『キネマ旬報』などに寄稿し、『WOWOWぷらすと』『ZIP!』『japanぐる〜ヴ』に出演中。共著『現代映画用語事典』ほか。