思い込みを捨てよう! “気持ちいいセックス”のすすめ
セックスに関する情報があふれる昨今、セックスは「こうであるべき」というルールに縛られて、自分にとって本当に気持ちいいセックスから遠ざかってしまっている可能性も。アダルトビデオ監督の二村ヒトシさん、ラブライフアドバイザーのOLIVIAさんを迎えて、男女にとっての“気持ちいいセックス”をとことん追求します!
“こうあるべき”なセックスからの脱却を
―女性にとって気持ちのいいセックスというと、“時間をかけたスローなセックス”が思い浮かびますが、おふたりが考えるスローなセックスってどういうものでしょうか?
OLIVIAさん(以下O):ポリネシアンセックスが有名ですが、あれは正式には1週間かけて行う、宗教的な儀式です。キスだけの日、ハグだけの日があって、そして最終的につながってから30分間は動かさずに、決まった体位でオーガズムに達するというやり方。夫婦がポリネシアンセックスをすると枕元にご先祖様が現れて祝福されるとされていて。私がスローなセックスを定義するなら、前戯を長めにして、必ずしも射精や強いピストンを伴わないセックスの充実、としています。
二村さん(以下N):ポリネシアンセックス、一度はやってみないとな……(笑)。ゆっくりしたセックスを求める女性は「セックスを通して、パートナーから大切にされたい」と願っているんだと思います。それはとてもよいことで、尊重されるべき。性交痛のある女性って意外とたくさんいるんです。もちろん激しいセックスが好きという女性も「激しくなくちゃ納得できない」と思っちゃってる女性も少なからずいるけど、セックスには「こうあるべき」はない。そのときの本人同士にマッチした形なら何でもありです。
―もしかしたら男性もスローなセックスを求めているかもしれないですしね。
N:うーん、男性には「セックスとは激しいもの」だと思い込んでいる人が多いですよ。そうでないと勃たない人も。ポルノなどで、そう教育されてしまっているからです。そう思っているせいで、かえって疲れて、面倒くさくなってしまう場合も多い。本当はOLIVIAさんのおっしゃるとおり、射精なんてセックスのごく小さい一部にすぎないし、そもそも勃起だって挿入だって、絶対に必要なわけじゃない。
でも、どうしても男女ともに「セックスというのは、男が“男らしさ”を見せるもの」って思っちゃう。それがなぜかというと現代の社会では、っていきなり大袈裟な話になりますけど、社会を動かしているのが「ペニス」だからです。収入(経済)とか政治とかマウンティングとか、「まじめでなくてはいけない」「カッコよくなくてはいけない」「モテたい」「敵をやっつけなくてはならない」とか、そういうものはすべて心理学でいうファルス(※象徴としての男性器、男性性)です。広告とか消費とか情報とか“女性の美しさ”も、だいたい「ファルスを勃起させるため」に機能している。それを去勢されてしまうと、多くの男は自分の存在が奪われたような、居場所がないような感覚になる。だからセックスのときも自分のペニスを勃たせて、女性を喜ばせて、自分は我を失わないようにっていうのが最良だと信じているんです。女性のオーガズムを自分の手柄だと思いたいんですよ。女性の側も、男がファルスを勃てて「お姫さま扱いしてくれること」や「激しく抱いてくれること」でしか承認欲求を満たせないと思っている。
そして、昼間に仕事で「ファルスを勃て続けること」に疲れちゃった男は、今度は女性に一方的に“癒し”を求める。あるいは、受け身のセックスの味を覚えちゃった“モテる男”は、マグロであることで逆に女性を支配しようとする。もっと男女ともに、お互いの体と心を大切にして、溶けあうようなセックスをしたほうが、お金をかけずに幸せになれると思うんだけど。
O:男性のなかの女性性をうまく循環させたほうがいいんですよね。男女ともに、セックスといって思い浮かべるものは人それぞれ違うと思うんですけど、その思い浮かべるセックスはルールが多くて、決めつけられてますよね。
N:女性の側もみんな、真面目で一生懸命だから「セックスは、こうでなければ」と思って、がんばる。だけど女性も一生懸命になることをやめたほうがいいし、まずは思い込みを捨てたほうがいい。もちろん女性の側が「今日は一方的に、激しく抱かれたい気分だわ」って感じた日は、彼女に恋している男ならビシッと勃てて、がんばったほうがいいとは思いますけど。それで、ちゃんとコミュニケーションができて、お互いが楽しめるならね。普段のセックスは、お互いに気持ちよくて、くつろげて、それぞれに自分にとっての癒しがあって、信頼できる相手、体に触れたいと思う相手とできればいい。オーガズムというものも人それぞれであるべきなのに、一般的に考えれらているオーガズムっていうのは、誰かが勝手に決めたものです。なんでもかんでも言語化して分類するのは悪い癖ですよね。「これは○○オーガズムだ」って呼べばわかりやすいから。
O:男性の作ったルールにのっとって話をしたほうが、女性にアドバイスをするときも伝わりやすい部分はあります。「これはGスポットで、中イキしやすいポイントです」みたいに言うんですけど。でも本来は私も、気持ちよくてくつろげれば何でもいいじゃん、と思ってるんですよ。取材を受けるときも具体的なテクニックを紹介することが多いんですけど、本当はそれだけじゃないんだけどな……、と葛藤しながらこの仕事をやっています。
N:オーガズムしかり、気持ちいいとされているテクニックしかり、「こういうものだ」と分類して決めてかかると、わかりやすくて目指しやすい反面、それができないときに自分はダメだと罪悪感がわくんですよ。自分はダメな女だと。でも、それは男性性が優位な社会に利用されているということでもある。
O:言葉にすればするほど窮屈になってしまうんですよね。感情的、感覚的にセックスを楽しみたいなら、ベッドの上では知識とかのスイッチをオフにしたほうがいいと思います。私はセックスをするときはいつも、何も知識がないというスイッチオフの状態で挑んで、相手の出方を見るという楽しみ方を心がけてるんですよ。カップルマッサージや体位などのメソッドは作ってますけど、それが絶対にいいという言い方はしていないんです。ルールに囚われずに試して好きなものを選んで、ふたりの“お気に入りフォルダ”に入れてみて、っていう提案をしています。
photo : Getty Images
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二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(文庫ぎんが堂刊)も好評発売中。
http://nimurahitoshi.net/ -
OLIVIA(オリビア)/ラブライフアドバイザー、アロマセラピスト。1980年生まれ。2007年より性に関する総合アドバイザーとしての活動を開始。テレビ、ラジオ出演をはじめ、雑誌やウェブサイトでの執筆、セミナー開催など幅広く活動中。自身が考案したカップルマッサージ「LOVEもみ」のレッスンや、セクシャルカウンセリングとアロマトリートメントを組み合わせたオリジナルセラピーが女性に大好評。著書に『感じるセックス、飽きないセックス』(実業之日本社刊)、電子書籍『人に言えない、セックス相談室』(KADOKAWA刊)ほか。
http://www.olivia-catmint.com/