「地方と都市」「思春期の少女が大人へ」の2大テーマは心に刺さる
山内:私は『裸足の季節』にすごく衝撃を受けたんです。トルコでは女性がここまで前時代的な扱いなのか、と。5人姉妹だし、ビジュアルは『ヴァージン・スーサイズ』のようにガーリーで素敵なんだけど、題材はすごく重い。
山﨑:これが現代の話とは、都市部が出てくるまでわからないくらい。イスタンブールはとてもいいところだけど、トルコは都市部と地方で文化的な差がすごく激しい。わりと最近まで誘拐婚があった地方もあるらしく、姉妹も似たような状況に追い込まれる。女の子たちがそれぞれの闘いで村から抜け出ようとするするんですが、それがそのまま女性の闘いの歴史にもなっている。
山内:ああ、そうですね! 姉妹の格闘ぶりがそのまま女性史になっている。全女性に見てほしいです。
――『ブルックリン』も閉鎖的なアイルランドの田舎から主人公が脱出します。
山崎:『ブルックリン』は原作も好き。全世界の地方出身者にしみる映画でしたね。
山内:しみる! アイルランドとニューヨークの船旅の距離が思ったより近くて。海を隔てているけどたまには帰れる、まさに東京と地方の距離感なんですよね。『ハイ・フィデリティ』の作家でもあるニック・ホーンビィの脚本がすごくうまいんです。水着に着替えるシーンだけでヒロインが都会の女になったことを見せる。ニューヨークに来たばかりのときは洋服の下に水着を着てこないで、もぞもぞしているんだけど、次にアイルランドに帰って友達と海に行くときは下に水着を着込んでる。シュッっと着替えて、「そんな手があったのね!」って言われる(笑)。都会のスマートな風を吹かせているんですよ。
山崎:長谷川町蔵くんと、これは山田洋次が『川崎』ってタイトルで日本版を撮るべき、って言ってたんです(笑)。
山内:『川崎』!。
山崎:黒木華が東北から川崎に出てきて、さいか屋で働く設定。ジム・ブロードベントの司祭のかわりに、西田敏行の住職がいて。で、東北県人会にこっそり富山出身の妻夫木くんがいて、田舎には吉岡秀隆が待っている、という。見たことある気がしてくるでしょ?(笑)。
山内:『川崎』は見てますね!(笑)
山崎:本当にこの話は日本的なんですよ。
山内:山田洋次は絶対二回撮ると思う。この話を気に入っているから(笑)。かつて倍賞千恵子で撮っていて、黒木華でセルフリメイク。地元の男か、都会の男か、と引き裂かれる姿に、まるで自分のことのように悩んじゃいました。表向きは『キャロル』推しなんだけど、地方出身者にとっては『ブルックリン』が本当の一推し。
――『キャロル』とは時代も同じで、着こなしも似てますね。カーディガンが命。
山崎:ケイト・ブランシェットは着こなしで金が取れる数少ない存在なのは間違いなし。
山内:ちょっと宝塚の男役っぽくもあって、本当にうっとりでした。
山崎:『シング・ストリート 未来へのうた』もアイルランドを捨てる話。かわいらしい映画だったけど、イギリスに行くぞっていうときに、なんでバンドを捨てて女の子を取るんだよ!(笑)。『イット・フォローズ』も田舎の思春期もの。試写室で「あーっ」って声を出しちゃって恥ずかしかった。それくらい怖かったし、思春期の官能的な部分をちゃんと描いていたのがよかった。監督のデヴィッド・ロバート・ミッチェルは注目です。
Text: AYAKO ISHIZU
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山崎まどか/文筆家、翻訳家。映画、本、音楽などカルチャー全般に精通し、「乙女カルチャー」の第一人者。著書に『女子とニューヨーク』『オリーブ少女ライフ』『ヤング・アダルトU.S.A.』(共著)など。翻訳書に、タオ・リン『イー・イー・イー』、『ありがちな女じゃない』など。
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山内マリコ/作家。2008年に「女による女のためのR-18文学賞」で読者賞受賞。’12年『ここは退屈迎えに来て』でデビュー。著書に『さみしくなったら名前を呼んで』『パリ行ったことないの』『かわいい結婚』など。最新刊は長編小説『あのこは貴族』。’13年の『アズミ・ハルコは行方不明』が映画化され現在公開中。