西加奈子、村田沙耶香、柚木麻子:これからのヒロイン~彼女たちは何を書いてきたのか
発売中のエル・ジャポン7月号にて、好きな本・好きなヒロインについて、泣いたり笑ったり、熱い思いを鼎談を通して語り合ってくれた注目の女性作家3人。自身の作品の延長線上にあるかのように、彼女たちが好きなヒロインには、不思議と3人それぞれの作風と通じる魅力がある。尽きることのない読書の奥深い世界を、本誌では書ききれなかったインタビューでご紹介!
西加奈子さんが語るヒロイン
この世界をどうやって肯定するか。 少女のように凛々しい女たち
髪を切って、マニッシュなスタイルがよく似合う。袖に「read」と青い刺繍が入ったシャツはこの日のために選んでくれたのだという。本誌鼎談では大好きな本の話をしながら涙ぐんでいた。そんな姿を目の当たりにすると、心がまっすぐに震えることを描いてきた西加奈子という作家自身がこの人が描く小説に出てくる勇敢な少女そのものに見えてくる。
西 アーヴィングはね、涙なしでは語れないですね。アーヴィングの新作が出ると嫌やなーと思うの。おもろいに決まってるしって。嫌々買って、ほーら、おもろい。なんて美しいんや、こういう世界であればなといっつも思う。
どうしたらこの世界を、それでも肯定することができるのか。全身全霊で信じるところを描き切ろうとする覚悟が、直木賞を受賞した『サラバ!』からもほとばしっていた。
西 ジャネット・ウィンターソンの『灯台守の話』なんて38歳で読んだんですよ。38なのに子どものように滂沱の涙を流して勇気をもらえた。38なんて江戸時代なら死んでるで(笑)! やっぱりね、小説ってすごいと思うんです。だからほんまにもっと読んでほしい。
泣きながら笑う。西加奈子にとっての小説は、そうやって傷だらけで生きていくすべての人を寿ぐ祝福なのだろう。
西さんが
好きなヒロインが登場する3冊
『灯台守の話』
ジャネット・ウィンターソン著
岸本佐知子訳 白水社刊 ¥1,300
孤児の少女シルバーは、盲目の老人ビューに引き取られ、灯台守の見習いに。
『ひとりの体で』
ジョン・アーヴィング著
小竹由美子訳
新潮社刊 上下巻 各¥2,000
美しい図書館司書ミス・フロストに恋をしたビリーの性と成長の物語。
『ソロモンの歌』
トニ・モリスン著
金田眞澄訳
ハヤカワepi文庫 ¥1,100
内気な少年ミルクマンは、叔母パイロットの奔放な生き方に惹かれていく。
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西加奈子
1977年、テヘラン生まれ。2004年『あおい』でデビュー。'07年『通天閣』で織田作之助賞、'13年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞、'15年『サラバ!』で直木賞受賞。
『まく子』
温泉街に住む小学5年生の「ぼく」は、猛スピードで大人になっていく女子が恐ろしかった。ある日、コズエという風変わりな女の子が転校してくる。大人になることへの怖れをみずみずしく描いた傑作。
Photo: Akemi Kurosaka(Portrait), Asa Sato(books) Text: Harumi Taki