特集 2015/6/12(金)
二村ヒトシの映画でラブ&セックス考

【第18回】『海街diary』、女たちの共同体という幸せな「家」のかたち

『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』『すべてはモテるためである』などの著書で恋愛とモテについて説き、アダルトビデオ監督としてあくまで女性目線での作品づくりに定評がある“女性と性”のエキスパート、二村ヒトシさん。そんな二村さんが毎月1回、新作映画からラブ&セックスを読み解く連載。第18回は、是枝裕和監督が鎌倉に暮らす4姉妹の日常を描いた『海街diary』を斬る!

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(C)2015吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ

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“男らしくなさ”が裏テーマ

そういう「さまざまなタイプの、中学生からアラサーまでの年齢層」の女たちの、肌を丁寧に描いた映画だとまず思いました。
 
すずの肌は夏のサッカーで健康的に日に焼け、その色が褪めていき、季節が、時間が過ぎていくことが表現されます。千佳は年齢的には大人ですが、すっぴんです。すずが現れるまでは彼女が、家族を形成するために「子どもっぽい役」を演じていなければならなかったからかも。
 
いちばん年上の幸は(なにしろ綾瀬はるかですから)異常なくらい美肌です。職場でも薄化粧で、毎晩きちんとメイクを落としてケアして寝るのでしょう。看護師は健康で清潔であるのも仕事のうちですが、完璧主義すぎて、病院でも(彼氏以外からは)きっと怖がられているでしょう。超美人・長澤まさみが、男と酒に疲れた肌の、ちょっと田舎のごく普通のOL・佳乃を演じているのも、色っぽくて素晴らしい。
 
肌だけでなく、お葬式や法事のシーンで四人姉妹の喪服のスタイルがまったく違うのも印象的です。是枝監督は「女性」が好きなんだなあ、よく観察しているなあ、と思いました。綾瀬と広瀬には、それぞれ、サシで、あの大竹しのぶとガップリ四つに組んで演技で渡り合わなければならないシーンも用意されています。つくづく、すごい監督だ……。
 
さらに僕が感心したのは、この映画に出てきて姉妹に絡む男たちが、みんなそれぞれ「男らしくない」ということでした。それがこの映画の裏のテーマであることは明らかです。
 
佳乃は、年下で学生の藤井(坂口健太郎)を甘やかし、破局します。次に佳乃の前に現れたのは上司の坂下(加瀬亮)ですが、彼は今まで佳乃が惚れてきたダメ男たちとは違うようです。大手都市銀で出世コースだったらしいのですが、どういうわけか田舎の信用金庫に転職してきた男。けれど景気の良くない地域の人たちに、親身になって優しく相談に乗る。佳乃は、坂下と一緒に営業周りをするうち、だんだん仕事というものが楽しくなってきます。恋愛ジャンキー気味だった佳乃が、草食男子っぽい坂下に抱いた感情は健康的な“憧れ”なのです。
 
千佳の恋人・浜田(池田貴史)は怪我をして登山家になるのを諦めた、スポーツ用品店の店長。彼もまた心優しき「男性社会の脱落者」です。彼はごく自然に、空気のように四姉妹の生活に「お邪魔」するのです。こういう男性は女性たちから愛されますよね。佳乃の前彼の藤井が、セックスだけは一人前にするくせに、佳乃の姉妹と会うことは拒むのと対照的です。
 
すずに恋する同級生の少年・風太(前田旺志郎)は、すずよりサッカーが下手です。でもすずのことが大好きです。
 
大問題なのは、幸の恋人・椎名(堤真一)です。彼は立派な志をもった医師で、教養もあり、収入も抜群に良く、男性社会での成功者。さらに一見、幸にも優しいのですが、その優しさは古い男の「男らしさ」なのです。別居中の妻との関係はどうしようもなかったことなのかもしれませんが、彼は「逃げて」いたのです。
 
映画に登場しない(その死から物語が始まる)四姉妹の父も、やはり「逃げる男」でした。風来坊で、多くの女性たちから恋をされ続け、最期まで逃げ続けていたのでしょう。

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