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心に触れて、心を取り戻す

順調に男娼として稼いでいたフィオラヴァンテは、物語の定石どおり、厳格なユダヤ教ラビの未亡人アヴィガル(ヴァネッサ・パラディ)に出会って恋をしてしまうわけです。欲望をもつことをやめていた男が、ひょんなことから“相手を欲しいと思う気持ち”を思い出す。好きになると、相手の存在すべてが欲しくなります。そうすると男娼の仕事のほうは、うまくいかなくなる。
 
僕の本業のアダルトビデオの世界でも、AV男優が1人の女優さんを本気で好きになると、その女優さんに対しても他の女優さんに対しても勃たなくなってしまうという現象が起きることがあるのを思い出しました。男は恋をしてしまうと、多くの女性を均等には愛せなくなることがある。まあ「男のほうが純情だ」などと世迷い言を言いたいのではなくて、単に生理的な機能の問題ではありますが。
 
ところがアヴィガルには、彼女に恋い焦がれる幼なじみの男ドヴィ(リーヴ・シュレイバー)がいました。彼は真面目だし一緒になれば幸せになれることもわかっているのに、アヴィガルは「ウザい」と思ってしまうわけです。情熱的に迫ってくる男には惹かれない女性、恋してくれてる男を愛せない女性って、いますよね。
 
では彼女は、なぜフィオラヴァンテのほうに惹かれるのでしょう。フィオラヴァンテはアヴィガルの体も心も求めず、マッサージをして、料理を作って、ただ話を聞きました。彼女は孤独な未亡人で、きっと十何年も誰も彼女にそんなことしてくれなかったんでしょう。“ケア”をしてくれたフィオラヴァンテは、彼女の心に触れました。それで彼女もフィオラヴァンテの心に触れ返して、そうしたら彼は「好きになる」という感情を取り戻してしまった……。
 
男も女も、実はもっている寂しさの本質って、そんなには変わらないものだと僕は思います。「気持ちの根っこでは、支配したいのが男だ」と書きましたが、もしかしたら男性も根っこの根っこでは、セックスしたり恋させたりではなく、マッサージだけしてもらって話を聞いてもらって、心と体に“触ってもらう”ことを必要としてる人が意外と多いのかもしれませんね。
 
■今回の格言/草食系だけど、やることはやってくれる男性というのが、いちばん女性を癒すのかもしれない。もし男を買うなら、欲のない草食系男子にすべし。

「【第10回】『ジゴロ・イン・ニューヨーク』に見る、草食系だけど“やることはやってくれる”男のモテ」トップへ
  • 二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(文庫ぎんが堂刊)も好評発売中。
    http://nimurahitoshi.net/

  • 『ジゴロ・イン・ニューヨーク』
    監督・脚本/ジョン・タトゥーロ
    出演/ジョン・タトゥーロ、ウディ・アレン、ヴァネッサ・パラディ、リーヴ・シュレイバー、シャロン・ストーン
    配給/ギャガ
    公式サイト/http://gigolo.gaga.ne.jp/
    公開中

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