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欲望をもたない男だから女性に優しくできる?

NYを舞台に、ウディ・アレン演じる本屋の店主がジョン・タトゥーロ演じる友人をそそのかして、シケたオッサン2人で出張ホストのビジネスを始めるというコメディタッチのラブストーリーです。物静かなフィオラヴァンテは、いい歳をして特に目標もなくアルバイトで暮らしている中年の男。初老ですが軽卒なマレーは祖父の代から続いた本屋を不況で畳むことになり、経済的な危機。そこでフィオラヴァンテに「欲求不満で金持ちの女性を俺が探してくるから、彼女たちのお相手をしてみないか」と提案します。最初は躊躇していたフィオラヴァンテだけど、たちまちお客の女性たちにモテ始め……。
 
主人公フィオラヴァンテのバイト先は花屋さん。イタリア系らしく外見は精力が強そうですが、女性に届ける花束は伊達男っぽい情熱的なそれではなく、まるで日本の生け花みたいな渋いもの。彼は女性に対してがっついてないだけじゃなく、人生においても特に何も欲しがっていない男なんです。いまどきの若者ではありませんが、こういう男性こそ「草食系」と呼ぶべきなのかも。
 
自分からは女性を口説く気がない彼は、“男性から求められること”を求めてる女性にとっては物足りないでしょう。だから現実的な生活のなかでは全然モテない。けれど、ひとたび男娼として女性の元に派遣されれば、うわべのお世辞や優しさではない押しつけがましくないサービスをしてくれる。セックスでも、しっかりと相手を楽しませる能力がある。なぜ彼がそういう人格になったのかは映画のなかで具体的には語られませんが、若き日に愛を失った経験があることを思わせるセリフもありました。
 
相棒のポン引き・マレーは、後妻とその連れ児をたくさん抱えた、心優しい年老いたお父さんとして描かれますが、かつて若い頃は女性の心を食うタイプのヤリチンだったんじゃないでしょうか……、っていうのは私生活で過剰な女性問題を抱えていたウディ・アレンご本人が、どうしても重なって見えてしまうからですが(笑)。
 
それこそ外見はイケメンではないのに、さまざまなハリウッド女優と浮き名を流したウディ・アレン。女性は才能やユーモアに惚れてしまうのだろうけど、実は彼は女性の心の穴(コンプレックス)を刺激して、相手を精神的に支配してしまうヤバい男だと聞きます。女性にしてみたら“目が覚める”までは、踏みにじられるほどに恋の感情が深まってしまう。アレン自身の心の穴も深いんでしょう。このタイプの男性はモテますが、別れた後で相手から憎まれます。
 
もしかしたらウディ・アレンは「女に興味をもたない、欲望や業(ごう)が深くない男が、なぜかモテる」という、自分の現実とは真逆な物語に興味をひかれたのかもしれませんね。主演だけでなく原案・脚本・監督まで務めたタトゥーロの着想に惚れ込んで、14年ぶりに自身の監督作じゃない映画に俳優として出演した、ということですから。

「【第10回】『ジゴロ・イン・ニューヨーク』に見る、草食系だけど“やることはやってくれる”男のモテ」トップへ
  • 二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(文庫ぎんが堂刊)も好評発売中。
    http://nimurahitoshi.net/

  • 『ジゴロ・イン・ニューヨーク』
    監督・脚本/ジョン・タトゥーロ
    出演/ジョン・タトゥーロ、ウディ・アレン、ヴァネッサ・パラディ、リーヴ・シュレイバー、シャロン・ストーン
    配給/ギャガ
    公式サイト/http://gigolo.gaga.ne.jp/
    公開中

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