合理主義はズルじゃない。両立不安から両立可能へ
先日、あるドラマを見ていて驚きました。女性誌編集部でバリバリ働いているヒロインが、恋人である作家に謝っているのです。「ごめんね、最近仕事が忙しくて、料理も作ってあげられてなくて、おうちのこともやってあげられてなくて……」と。
彼氏や家族には、きちんと栄養バランスの取れた食事を作ってあげよう、清潔な家で快適に過ごしてもらいたい……。これらは、一見なかなか否定しにくい考え方で、ついつい反省してしまう“両立不安女子orママ”たちは多いはずです。「あー、私もちゃんとできてなかったなあ。女子力低すぎだわ」と。そして、テレビはもちろんのこと、料理や手作りをきれいに撮影してアップされるSNSなどからもこの種のプレッシャーを受けてしまうのが現代です。
SNSには競い合うように毎日、愛情いっぱいの色とりどりのお弁当の写真が流れていきます。それらを見ると、パンや冷凍食品をお弁当にしているお母さんたちは子供に対する罪悪感や、自己嫌悪を感じてしまう。自分以外がみんなそうしているような気がしてしまって、「私にはそんな面倒なことはできないわ!」と言い切れる女性たちが減ってしまっている。子ども時代に自分は食べたことのないキャラ弁を、クックパッドを見ながら頑張って作るお母さんは多いはず。
キャラ弁だけではありません。いつでもキレイな家も、いつでもいい香りをさせるボディクリームの着け方も、襟汚れのない洗濯の仕方も、しまいには膣力まで、すべて“女子力”の名のもと、追求するべき美徳だと女性にはプレッシャーが与えられています。
仕事とは異なり、家事労働は家族への愛情という“絶対善”のを前にしては、効率性・合理性の発想が持ち込まれにくい、あるいは、効率性が否定されてしまうという側面があります。そしてその同調圧力は、SNS時代のなかでより強まっている。しかしその圧力のために多くの女性たちが両立不安に陥っているのであれば、それは解決すべき問題です。
便利家電を使うことにためらう必要なんてないし、ベビーシッターをお願いすることに抵抗感をもちすぎる必要もない。みんなと同じことをやっている安心感のためではなく、自分にとっての合理性を追求するという姿勢を持って生きていく。今なによりも大切なのは、女性たちの両立不安を、両立可能へと転換を図っていくことなのですから。
Text : Kumiko Ohashi
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※日中米英印等14カ国/18~70歳女性各国500人/人口による年齢割付/オンライン調査/2016年実施
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大橋久美子/東京大学文学部社会学科卒、博報堂マーケティング局、研究開発局を経て、2003年ジェイ・ウォルター・トンプソン・ジャパンに入社。広告業界で25年、アジアや日本の女性たちと向き合いながら、女性たちを輝かせるためのブランディングを行う。