そして皆美は、有島の不倫相手である美都を中傷するビラをまくという暴挙に出る。表向きは麗華に認めてほしくてすり寄っているように見えるが、本当は麗華の強さに嫉妬し、彼女の“弱み”をつかむことで優位に立ちたかったのではないだろうか。
 
しかし、「人を罰するのは、爽快ですよね。私のためじゃない」と、またしても麗華に正論で諌められた皆美は、「浮気されてるクセに正論吐いて、バカみたい！」と、とうとう爆発してしまう。
 
皆美「有島さんといると、苦しくなっちゃうの！　優しくて子煩悩な旦那さんがいて。私が愚痴ると、学級委員みたいに当たり前のこと偉そうに！」（第9話より）
 
皆美「旦那と話し合えなんてわかってる！　でも、自分とイヤイヤ結婚した人と話し合うのが怖いの！　有島さんには、こんな気持ちわからないでしょ？　わからないだろうね！」（同）

皆美に逆ギレされたことで、麗華は自分の頑なな強さと正しさが夫を追いつめ、美都との気楽な浮気に走らせてしまったことに気付かされたのではないだろうか。
 
あるいは、皆美のこの叫びは、芸能人の不倫報道を執拗にバッシングしたがる、私たち大衆の本音でもあるかもしれない。
 
さすがに皆美と自分を重ね合わせることには抵抗のある人でも、美都の親友・香子（大政絢）になら共感するのではないだろうか。
彼女は、本作を通じて美都の不倫を正論で咎め続ける、いわば視聴者のツッコミを代弁する役割を果たしていたからだ。
 
しかし、その香子も、第9話ではこんな本音を吐露してみせる。
 
香子「本人には絶対言わないけど、どこかで羨ましいって思ってたのかも。間違った恋に突っ走れるなんて、思いっきり人間してんなあって」（第9話より）
 
香子「だから説教してたんです。気持ちいいんですよ、自分が絶対的正義の立場から説教するの。でも、つまんないこと言ってんなあ私、って」（同）

これは、不倫ドラマに夢中になったり、不倫した芸能人をバッシングしたりする私たち視聴者を照らし返す、いわばメタ批判的な台詞である。
私たちは、不倫という悪を安全圏から叩きのめす快楽を享受しながら、同時に、“息苦しい正しさ”をイチ抜けして不倫を楽しむ者たちを、心のどこかで「あいつら、抜け駆けしやがってずるい！」と羨んではいないだろうか。
 
ちなみに「人間してる」とは、以前、欲望のまま不倫に走る美都を「あんた、それじゃ動物だよ？」と諌めた香子自身の発言と対応するものだ。それに対して、美都は「優しいから、いい人だから好きになるほうが、心に餌もらって懐いてるみたいで、動物っぽくない？」（第3話より）と言い返している。
 
つまり、正しさや合理的なメリットのために恋するなんて人間らしくない。むしろ、間違ったことに幸せを感じてしまう不条理こそ、人間の特権なのであると、そう美都は言いたかったのだろう。
こう見えて「あなそれ」は、人間の業を肯定する、究極の“人間賛歌ドラマ” だったのかもしれない。