私たちはなぜ不倫を許せないのか―「あなたのことはそれほど」は不倫ドラマを楽しむ視聴者をメタ批判する
2017/06/20(火)
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“正しさ”で有島・サイコパス・光軌を追いつめる麗華(右)。原作よりも光軌に人間らしさが垣間見えるのもドラマならでは。

“正しさ”は、正しく生きられない弱い人たちを追いつめる

そして、このドラマにおいて、“息苦しい正しさ”を体現するもうひとりの人物を忘れてはいけないだろう。有島の妻・麗華(仲里依紗)である。
 
彼女もまた、夫の不倫を察知していながら、自分の感情にはフタをして、決して夫を責めたりなじったりはしない。ただ、「今日、渡辺という女が尋ねてきたの」「昨日はベッドを使わなかったのね」「あなたは、嘘をつくとすぐに顔に出るわね」と、淡々と事実を指摘するのみだ。
 
そうやって、じっと耐え忍んで夫の“帰る港”であり続けることが、彼女にとってのあるべき“強く正しい妻”像だったのだろう。しかし、その泰然自若とした態度にチクチクと罪悪感を刺激された有島は、第7話で耐えきれずに不倫を自白してしまう。

他人から向けられた愛情を平気で吸い尽くしていく有島(右)に透明な闇を見る。

(c)TBS

彼にとっては、「浮気されて傷付いたの!」とはっきり感情を露わにされたほうが、ラクだったのかもしれない。麗華の“強く正しい態度”が、かえって彼を息苦しくさせ、追いつめてしまったのだ。
  
このように、誰かにとっての“正しさ”は、正しく生きられない別の誰かを抑圧し、追いつめてしまう独善性をはらんでいる。
「あなそれ」の後半が画期的だったのは、不倫ドラマを通じてそのことを示した点にあると思う。

第9話で対峙した“正しさ=麗華”と、“間違い=美都”。

これをもっとも象徴的に描き出したのが、麗華と隣人の主婦・皆美(中川翔子)とのエピソードだ。
 
皆美は、いつも自分を頭ごなしにバカ呼ばわりして人格否定してくるモラハラ夫・良明(山岸門人)のせいで、自分に自信を失い卑屈になっていた。そんな自分と違い、いつも落ち着いていて自分に自信があるように見える麗華に対して、尊敬と羨望を抱いていたようだ。
 
だが、第8話で麗華に「つらいって言えばいいのよ」「言わないと、ずっと伝わらないよ」と正論でアドバイスされると、皆美は「そんなこと言ったって、通じない」「私じゃダメなの。有島さんは、いつも自信たっぷりで、正しいこと、いつも言えるんだろうね」と言い返す。
 
すっかり自尊感情が低くなっている彼女にとって、麗華の“正しさ”は、自分の弱さを突きつけられ、努力が足りないと責められているように聞こえてしまうのである。

Text: Fukusuke Fukuda  photo: (c)TBS

  • (C)TBS

    「あなたのことはそれほど」(TBS)
     
    いよいよ6月20日(火)22:00~ W不倫のドロドロ物語が完結。最終話は15分拡大! 人間の業をどう受け止めるのかに答えが出るのか? 果たして涼太の異常な愛情はどこへ向かってしまうのか? 結末がひたすら気になる。
     
    http://www.tbs.co.jp/anasore/

  • 福田フクスケ/フリーライター・編集者。「男の自意識」を分析したジェンダー論を華麗に差し込みつつ、幅広いカルチャーを斜めから分析したコラムでオンライン上でまたたくまに人気を得る。雑誌『週刊SPA!』『GetNavi』、webメディア「SOLO」「マイナビニュース」などで執筆中。
     
    Twitter @f_fukusuke 

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