私たちはなぜ不倫を許せないのか―「あなたのことはそれほど」は不倫ドラマを楽しむ視聴者をメタ批判する
2017/06/20(火)
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第一話から、涼太(左)と出会って結婚へと進む美都(右)の目の笑わなさになにがしかの不安を感じた人多数。

“誠実で正しい”人を好きになるとは限らない恋愛の不条理

「あなたのことはそれほど」は、俗に言う“結婚向き”の誠実な男・涼太(東出昌大)と結婚した美都(波瑠)が、中学時代の初恋の相手である“恋愛強者”のモテ男・有島(鈴木伸之)と運命的な再会を果たし、不倫の恋に溺れてしまう物語だ。
 
涼太は優しくて一途で、家事能力も高く、いつも美都のことを尊重してくれるが、恋愛のときめきは与えてくれない。それに対して、有島は押しが強く積極的で、女性をリードするのが上手く、適度に相手を振り回してドキドキさせてくれる。
世の婚活女性をこれまでさんざん悩ませてきた“結婚向きの男と、恋愛向きの男は違う”というシビアな問題 を、まさに体現するような対照的なふたりなのだ。

有島(右)のモテテクにはサイコパシーすら感じる分、「こういう男いる!」と気付いた瞬間空恐ろしくなる。

美都は、「仕事も安定してるし、家事もできて優しくて、『結婚が生活だ』っていうなら、一緒に暮らすには最高の人なんです」(第1話より)と涼太のことを評している。にもかかわらず、なぜ火遊びで手を出してきたにすぎない有島に夢中になってしまったのか。
 
それは、彼が“こういうときは、こうすれば女性が喜ぶ”という、いわゆるモテテクを経験的に知っており、女性への気遣いや、距離の詰め方、好意の表し方、気持ちの揺さぶり方が抜群に上手いからだろう。

終始目の奥に光を感じさせない“キラキラな瞳”が怖い美都(右)。

(C)TBS

いっぽうの美都も、自分が不倫に手を染めていることにほとんど罪悪感がない。「なんで結婚しちゃったんだろう」「涼ちゃんが嫌いになってくれたら」「運命を逃したくない」「幸せが降ってきた」「悪い人になっちゃった」(いずれも第2話より)など、彼女の発言はいつも“運命が勝手にそうさせた”と言わんばかり。
 
おそらく彼女のなかには、“自分が主体的にコントロールできているうちは本当の恋じゃない”という、漠然とした“ときめき至上主義”、があるのだと思う。
 
そんな彼女にとって、絶えずときめきを供給し続けてくれる有島は、たとえ不誠実な遊びの関係だろうが、自分をどこまでも受け身&お客様気分のヒロインでいさせてくれる、都合のいい王子様なのだ。

彼らが繰り広げる不倫にはとくに罪悪感がつきまとわないことで、ドラマがより質の高いものに。

結婚とは、生活という秩序や規範を守るために、お互いが主体となって、対等で安定した関係性を構築していくものである。だが、私たちはこと恋愛において、涼太のように“優しくて誠実で正しい人”を好きになるとは限らない。有島のように、自分から主体性を奪い、不安定な秩序の外へ逸脱させてくれる“正しくない人”に、得てして魅かれてしまうのである。
  
美都「こんなの間違ってる。だけど今、どうしようもなく幸せ」(第1話より)
 
そう、「あなそれ」は、ときに正しさに息苦しさを覚え、正しくないことに幸せを感じてしまう、人間という生き物の業をあぶり出しているのである。

Text: Fukusuke Fukuda  photo: (c)TBS

  • (C)TBS

    「あなたのことはそれほど」(TBS)
     
    いよいよ6月20日(火)22:00~ W不倫のドロドロ物語が完結。最終話は15分拡大! 人間の業をどう受け止めるのかに答えが出るのか? 果たして涼太の異常な愛情はどこへ向かってしまうのか? 結末がひたすら気になる。
     
    http://www.tbs.co.jp/anasore/

  • 福田フクスケ/フリーライター・編集者。「男の自意識」を分析したジェンダー論を華麗に差し込みつつ、幅広いカルチャーを斜めから分析したコラムでオンライン上でまたたくまに人気を得る。雑誌『週刊SPA!』『GetNavi』、webメディア「SOLO」「マイナビニュース」などで執筆中。
     
    Twitter @f_fukusuke 

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