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男と女の“勝ち負け”はバカバカしい

『くノ一忍法帖』

山田風太郎さんは40年くらい前に、忍者と忍者が奇想天外な忍術で戦う、バカバカしい、なのに泣ける時代小説をいっぱい書いて、どれもベストセラーになって一世を風靡した作家です。少年マンガのバトルものの元祖みたいな人だし、中島らもさんや京極夏彦さんが少年時代にハマっていたという、つまり男性のファンが多いんだけど、僕は「山田風太郎が好き」って女性読者がいたらカッコいいと思うなあ。そういう女性に増えてもらいたいです。
 
『くノ一忍法帖』は、真田家の血を守ろうとする女の忍者たちと、それを滅ぼそうとする豊臣家の悪の男忍者が戦うんだけど、歴史的な知識とか全然いりません(笑)。魔法みたいな忍法の技が全部、セックスに関する技で、男の忍者の必殺技は「まじわった相手を自由自在に操る」とか「自分の精液を体に塗ると、それが乾いて鎧になって刀で斬られても死なない」とか、女忍者のほうは「名器すぎて、相手は死ぬまで射精し続ける」とか「しめつけが強力で、死んでも相手の一部を離さない」とか、ぶっとんだセックスバトル。下らない話を大真面目に書いているんですよ。ところが最後まで読むと感動するんです。いや、本当に感動するんで、だまされたと思って読んでみてください。つまり、ここには「女と男」がちゃんと描かれてるんだよね。
 
現代でも恋愛するときに、男と女って「どっちが勝つか」「どっちが恋をさせるか」みたいな“駆け引き”になることがあるじゃないですか。でも愛情やセックスを武器に使って男と女が戦うのって、忍者の殺しあい以上にバカバカしいし、哀しいよね。お互いが、より愛されたがって愛情の綱引きをしていたら勝負がつかないよね。惚れちゃった男に支配されるのって恋が醒めてみたら魔法が解けたみたいだし、ザーメンが鎧になるのはともかく(笑)、精神的な鎧をまとって相手の話を聞かず自分を守るっていうのは下らない男のプライドでしかないし。こういうファンタジーを考えつく男って、つくづくバカですね、いい意味で(笑)。
 
『くノ一忍法帖』
山田風太郎 著(角川書店)

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  • 二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年・六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、「すべてはモテるためである」(イースト・プレス)、「恋とセックスで幸せになる秘密」(イースト・プレス)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。
    http://nimurahitoshi.net/

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