新作『君が君で君だ』が話題! 松居大悟監督インタビュー
2018/07/02(月)
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舞台を「空間芸術」だとすると、映画は「時間を描く芸術」。一瞬で時間を飛べるし、一瞬で戻れる。

――松居監督は、舞台はもちろんのことながら、映画『SCOOP!』(16)やドラマ「ラヴソング」などにも役者として参加しています。御自身で演じることがあるからこそ、役者の気持ちが判る。僕はそれが演出に活かされている気がします。例えば、役者の演技のテンションを切らせない、という点で長回しが多い。それは意識的にやっていることですか?

編集に関して言うと「もっと残酷にならなければならない」と思うんですね。僕は“世界”に入ってしまいがちだから、どうしても感情的なものを大切にします。芝居が一番だと思うのですが、編集時にはもっと俯瞰して、残酷に切っていかなければならないとも思う。だから悩むことはありますね。演劇の人が映画を撮ると「間が切れない」と指摘されることが痛いほどよくわかるんです。「この寄りの尺、もう半分にできるのに!」というところは、演劇の人の良いところでもあり、悪いところでもありますね。

――この映画では限定された室内空間で物語が進行しますが、例えば音響効果によって「夏じゃないかな?」と思わせるような工夫が成されています。

こだわりましたね。例えば、3人が歌を歌っている場面で、ソン(キム・コッピ)の部屋に聞こえてくる歌声の<音>などはそうです。窓を閉めている時と窓を開けている時との<音>の変化は、1dbという判らないくらいのレベルの音を上げたり下げたりという調整を何度もしました。例えば「姿は見えないけれど階段を上がって来る音が聞こえる」ということを<音>で表現しています。世界が狭いからこそ、外の音を意識しました。映画と演劇の違いについてですけれど、僕は演劇というのは空間芸術だと思っていて、映画は時間を描く芸術のような気がしています。一瞬で時間を飛べるし、一瞬で戻れる。そこを描くのが、僕にとって映画なんです。

『君が君で君だ』は、松居大悟監督にとって現段階においての集大成的な作品だと思える。それは『アフロ田中』(12)や『スイートプールサイド』(14)で描いた「ちゃんと好きと言えない男の子」たちが主人公であり、『私たちのハァハァ』のように現実と虚構がクロスオーバーする瞬間があり、時間を描くという意味では『アイスと雨音』にも通じる。そして、事の大小はあっても「何かに執着する人間」を描いていることは全作品に共通するテーマでもある。そのことに対して松居監督は「意識はしていないけれど、完成した作品を改めて観ると出ているので不思議ですね」と笑った。ちなみに最近観た映画で面白かったのは『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリット・ディア』(17)で「何を作ろうとしているのが判らないところが良い」のだそうだ。他人から見ると、松居監督の作品もまた同じように思えることは、とても興味深いことだった。

  • 『君が君で君だ』

    愛する女性のために、尾崎豊、坂本龍馬、ブラッド・ピットになりきり、自分を捨てた3人の男たちがいた。彼らはお互いを「尾崎」「龍馬」「ブラピ」と呼び合い、10年間に渡って彼女の棲む部屋の向い側に部屋を借り、静かに見守り続けていたのだ。ところがある日、平穏だった彼らの日常は混乱をきたすことになる…。松居大悟監督と主演の池松壮亮は、これまでも『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(13)や『私たちのハァハァ』(15)などでも組んできた仲。尾崎を演じる池松壮亮のほか、龍馬に大倉孝二、ブラピに満島真之介、彼らが愛する女性を『息もできない』(10)のキム・コッピが演じている。またYOU、向井理、高杉真宙など豪華キャストが脇を固めているのも話題。

    7月7日(土)より新宿バルト9ほか全国公開。 
    https://kimikimikimi.jp/

Text:Takeo Matsuzaki  Photo:Michika Mochizuki

  • 松崎健夫(まつざき・たけお)

    映画評論家。『キネマ旬報』などに寄稿し、『WOWOWぷらすと』『ZIP!』『japanぐる〜ヴ』に出演中。共著『現代映画用語事典』ほか。

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