リトル・ブラック・ドレス
17歳でムーランのノートル=ダム寄宿学校に入学したガブリエル シャネル。このときにまとった使い古しの半長靴や雑に裁断された服など、これらすべてが屈辱の源となり、のちにあのスタイルを確立し、ファッションの歴史を大きく変えることに。それが、1926年にカンボン通りで誕生した新しいファッション、リトル・ブラック・ドレス。
装飾されたドレスが主流の時代において、当時喪服として使用され、ファッションにおいてはタブーとされていた“黒”のクレープデシン素材で仕立てた浅めのラウンドネック、腕にフィットするロングスリーブ、そして膝丈が新鮮な細身のドレスは、襟も、ボタンも、刺繍も、レイヤーも、フリンジもなし。ウエスト下でわずかにブラウジングされ、装飾はスカート部分に入ったV字形のラインだけという余計なものは一切ない純粋なラインのドレスは“モダンな女性のユニフォーム”として絶賛され、究極のエレガンスの象徴に。「常に引き算を。余計なものは付け足さない」というガブリエル シャネルのポリシーは、ファッションをこよなく愛するひとたちのスタイルの指針として、いまも受け継がれている。
text:RUMI TOTOKI