『さよなら渓谷』
真木よう子と大西信満、大森南朋と鶴田真由が、それぞれ夫婦です。大西・真木夫妻は過去にかかわった“いやな事件”を隠して、でもその事件に魂をとらわれていて、ひっそりと生きています。ふたりは、“いやな事件”のおかげでセックスレスにならないのです。
事件をほじくりかえす雑誌記者の大森(もちろん妻とはセックスレスです)は、同僚の独身女性・鈴木杏(大森と不倫をしなくて安心しました……)と“男の罪悪感/被害者としての女性”についての議論をします。大森南朋は、なにも悪いことはしていないのに、大西信満に感情移入していきます。
もしかしたら世の中のほとんどの夫婦生活は、罪悪感と被害者意識で成り立っているのかもしれません。結婚するのがいやになる恐ろしい映画ですが、どうしても結婚したいのなら、罪悪感や被害者意識をもたずにすむ相手と結婚しましょう。あと、自分の被害者意識や相手の罪悪感を“愛”だと思いこむのは、やめましょう。ぜひ恋人か配偶者と2人で観てください。
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〈作品紹介〉
『さよなら渓谷』
ごくふつうに見えた夫婦は、事件の被害者と加害者だった―――。
幼児殺害事件で逮捕された実母。彼女と不倫関係にあった男も共犯者として逮捕されるが、告発者は男の妻。しかし、男と妻の間には15年前に起きたある事件が横たわっていて……。加害者と被害者がなぜ夫婦になったのか。2人の間に行きかう複雑な感情を描いた吉田修一の原作を、大森立嗣監督が映画化。モスクワ映画祭で審査員特別賞受賞作。
出演/真木よう子、大西信満、大森南朋、鶴田真由ほか
監督/大森立嗣『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』『まほろ駅前多田便利軒』
公式HP/http://sayonarakeikoku.com/
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二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(文庫ぎんが堂刊)、『オトコのカラダはキモチイイ』(KADOKAWA/メディアファクトリー)も好評発売中。
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text : Hitoshi Nimura