『アンチクライスト』
ウィレム・デフォーとシャルロット・ゲンズブールが夫婦を演じます。夫は妻を愛しているのですが、しかし妻を「自分がコントロールして、導いて、助けてあげる対象」だと考えています。おそらく彼は、そういうふうにしか女を愛することができない。妻はセックスを憎んでいて、しかしセックスをしないでは生きていくことができない。そんなふたりが仲良くセックスしている間に、彼らの愛の結晶である赤ん坊は窓から転落して死んでしまいます。
この、いやな場面が映画の冒頭なのですが、異常に美しいのです。夫婦は癒しを求めて「エデン」と呼ばれる森の中にふたりきりでひきこもるのですが、事態はどんどんヤバくなっていきます。ひどい話です。ひどすぎます。なんの希望もございません。結婚するのも子供を作るのも、生きていくのもいやになる恐ろしい映画です。ぜひ愛しあっている恋人か配偶者と2人で観てください。
(同じ監督の『ニンフォマニアック』という、やはりひどい映画の評も書いたんで、よかったらそちらもお読みください)
-
〈作品紹介〉
『アンチクライスト』
愛し合い、セックスを重ねる夫婦。ところがコトに励んでいる最中に、一人息子が窓から落ちて死亡する。それをきっかけに、妻の狂気が爆発。2人は残酷な末路へと進んでいく。カンヌ映画祭で主演女優賞をシャーロット・ゲンズブールにもたらした一方、激しく非難された“問題作”。
出演/シャーロット・ゲンズブール、ウィレム・デフォーほか
監督/ラース・フォン・トリアー『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『奇跡の海』
-
二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(文庫ぎんが堂刊)、『オトコのカラダはキモチイイ』(KADOKAWA/メディアファクトリー)も好評発売中。
http://nimurahitoshi.net/
text : Hitoshi Nimura