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閉ざされた“母と息子の世界”

ナオミ・ワッツとロビン・ライト演じる親友同士の美しい熟女が、お互いの息子と恋に落ちてしまう物語です。親子ほどの年齢差のある恋愛を描いた話は昔からありますが、わりと今までは男性側から描かれることが多かった。この作品は原作者も女性、監督も女性です。女性が極端に年上の関係って、それ自体は決して悪いことではないのに、社会的にはアンモラルでタブーだと受け取られますよね。この映画でも、“誰にでも起こりうるラブ&セックス”というよりは、近親相姦の代わりとしての“閉ざされた母性的な世界”を、ひとつの寓話として描いています。
 
母親2人と息子2人が暮らすオーストラリアの美しい海辺は、ロケーションからして閉じた世界。入江の形が象徴しているように、あの場所はお母さんのお腹のなか、もっと言うと女性器のなかなんでしょう。この息子たちは生まれたときから2人の母親に育てられたようなもので、“母たちと男の子たちだけの世界”で幸せに暮らしている。他者がいない、自分の分身しかいない状況で、母親同士がレズビアンになっても、息子同士がくっついても、まったくおかしくない。血の繋がっていない美しい“お母さん”が近くにいて、関係が一体化して、溶けちゃっている。
 
唯一、あの世界から追い出されたのがロビン・ライト演じるロズの夫で、彼が息子のトムをシドニーに呼び寄せたことで、結果的にあの4人の関係が変わっていくのは、排除されてしまった父親の復讐です。“魂の共同体”というべき2人の女性同士の関係があって、そこからはじき出された父親が何とかして息子を奪い返そうとする。母性的な世界のなかでは大きな変化やドラマは起こりません。母と息子の関係を邪魔するのは「外の世界を見ろ」という男性性です。

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  • 二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)、『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』(文庫ぎんが堂刊)も好評発売中。
    http://nimurahitoshi.net/

  • 『美しい絵の崩壊』
    監督/アンヌ・フォンテーヌ
    原作/ドリス・レッシング著『グランド・マザーズ』(集英社刊)
    出演/ロビン・ライト、ナオミ・ワッツ、ゼイヴィア・サミュエル、ジェームズ・フレッシュヴィル
    配給/トランスフォーマー
    公式サイト/http://utsukushiienohokai.com/
    2014年5月31日(土)~、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、横浜ブルク13ほかにてロードショー
     
    (C) 2012 HOPSCOTCH FEATURES PTY LTD, THE GRANDMOTHERS PTY LTD, SCREEN AUSTRALIA, SCREEN NSW, CINE-@, MON VOISIN PRODUCTIONS, GAUMONT, FRANCE 2 CINEMA.

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