ジム・ジャームッシュ4年ぶりの最新作は集大成的作品
'80年代、その独自のユーモアと映像スタイルで『ストレンジャー・ザン・パラダイス』『ダウン・バイ・ロー』といった傑作を生み出し、ニューヨーク・インディーズ ・フィルムの旗手と謳われたジム・ジャームッシュ。『デッドマン』に主演したジョニー・デップや、『ミステリー・トレイン』の永瀬正敏など、俳優からも熱い信望を得る監督である。そんな彼の新作は、アダム・ドライバーを主演に据えた『パターソン』。ニュージャージーのパターソンという街に住む、パターソンというバス・ドライバーの一週間を描く。寡黙な彼の趣味は詩を書くこと。毎日通る見慣れた景色でさえ、彼にとっては瑞々しいインスピレーションの宝庫だ。ちょっとおちゃめなガールフレンドと愛犬さえいれば、日々は充分に満ち足りている。そんなマイペースのアーティスティックな気質に、この監督自身のあり方がだぶってみえるようだ。
「パターソンは詩というフォームを愛している。彼のガールフレンドはそれを出版するようにと勧めるが、彼にはそれで有名になろうとか出世しようという気はまったくない。彼はシャイな男で想像力にあふれ、ただ素晴らしい詩を書きたいだけなんだ。それこそアーティストの鑑だよ」
静かな主人公とエネルギッシュで社交的なガールフレンドという、対照的なカップル像もユニーク。とくに家のなかをモノトーンで飾り付けたり、突然カップケーキ作りに精を出す彼女にいささか困惑しながらも、そのペースに合わせているパターソンの姿が微笑ましい。こうしたカップルの形について質問をぶつけると、珍しくちょっと照れた様子でジャームッシュがこう答えた。
「いろいろな愛の形があるけれど、彼らの場合はお互い足りないところを補い合っている。自分にないものに惹かれ、その違いがお互いを愛し合うようにさせているのだと思う」
パターソンが最後に訪れる滝のある公園は、実際にこの街の名所として知られる。謎めいた日本人ツーリスト役で永瀬正敏がゲスト出演し、パターソンと語り合うのも見どころだ。
「あの滝から日本を彷彿したんだ。それで日本人を登場させたいと思い、すぐにナガセのためにこの役を書こうと思った。彼は素晴らしい俳優だから。彼とアダムのシーンは、とても美しいものになったと思う」
ゆったりとした時間の流れのなかで、詩情に満ちた温かで愛おしい瞬間が訪れる。そんなマジカルな経験をさせてくれる作品である。
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『パターソン』
ニュージャージー州パターソンを舞台に、バスの運転手パターソン(アダム・ドライバー)の平凡な日常を、詩情とユーモアを込めて描写したヒューマンドラマ。ガールフレンドが手作りするインテリアやファッション、スウィーツも楽しい。8月26日より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて順次公開。
http://paterson-movie.com/ -
もう一つチェックしておきたいのがこちら!
『ギミー・デンジャー』
ジャームッシュ20年ぶりの音楽ドキュメンタリーが、ほぼ同時公開!こちらでは彼の盟友イギー•ポップ率いるザ•ストゥージズを8年間にわたり追いかけている。ジャームッシュファンは見逃せない!9月2日より、新宿シネマカリテほかにて公開。
Text: KURIKO SATO
P1-2
Photo: AFLO,©2015 MANDARIN PRODUCTION–X FILME MARS FILMS –FRANCE 2 CINEMA-FOZ-JEAN-CLAUDE MOIREAU
P3-4
Photo © MARYCYBULSKI, ©2016InkjetInc. AllRightsReserved.
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