フランスの鬼才、フランソワ・オゾンの新作テーマは“嘘”
まるでこちらの予測を裏切るのを楽しむかのように、一作ごとに異なるスタイルの作品を発表し続けるフランスの鬼才、フランソワ・オゾン。しかもほぼ毎年1作というハイペースにも拘らず、その打率の高さは映画界でもまれと言える。新作『フランツ(原題)』も例外ではなく、古典的な語り口のなかにドラマティックでエモーショナルな魅力を秘め、観客を虜にする。
第一次世界大戦で失った恋人フランツの墓を見舞うアンナは、ある日見知らぬ男が献花に訪れているのを目にする。男はアドリアンと名乗り、フランツがパリに留学していたときの親友だった。はじめはフランツのことを聞くために親しくなるアンナだったが、どこか影を帯びた彼に次第に惹かれて行く。やがてアドリアンの口から、重い秘密が明かされる。'20年代に書かれたこの原作を映画化した理由を、オゾンはこう語る。
「ずっと“嘘”をテーマにした映画を撮りたいと思っているときに、この原作に出会ったんだ。アドリアンの苦悩を描くために、僕は後半の話を付け加えてストーリーを脚色した。でも物語自体は恋人を失ったアンナの視点から描きたいと思った。これはいわばアンナが第ニの人生を生きるための旅路なんだ」
キャスティングも非の打ち所がない。アンナ役には、本作で昨年のヴェネチア国際映画祭の新人俳優賞をさらったドイツの新星、パウラ・ベーア。相手役のアドリアンを、『イヴ ・ サンローラン』で一世を風靡したピエール・ニネが務める。
「アンナの役は、若い頃のロミー・シュナイダーを彷彿させるような女優を探していて、ようやく出会ったのがパウラだった。一方アドリアン役には、すぐにニネが浮かんだ。出演作は観ていたし、いつか仕事をしてみたかった。彼の繊細さとどこかクラシックな存在感がこの役に適任だと思ったんだ」
まるで戦前の映画のようなしっとりとしたモノクロの映像が、ときおりカラーに変化することがある。アンナが忘れかけていたときめきや喜びを感じるとき、世界は彼女の心の目を通して晴れやかな色彩を帯びるのだ。そんなところにも、もはや巨匠と呼びたくなるオゾンの、鮮やかな手腕が発揮されている。
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『フランツ』
第一次世界大戦直後、ドイツの小さな村。アンナは、戦死した婚約者であるフランツの墓で、アドリアン(ニネ)という青年に出会う。フランツの思い出を語る彼に、次第に惹かれていくが……。詩情豊かな美しい映像に陶酔できる極上のラブサスペンス。11月、ヒューマントラストシネマほかにて公開予定。
Text: KURIKO SATO
P1-2
Photo: AFLO,©2015 MANDARIN PRODUCTION–X FILME MARS FILMS –FRANCE 2 CINEMA-FOZ-JEAN-CLAUDE MOIREAU
P3-4
Photo © MARYCYBULSKI, ©2016InkjetInc. AllRightsReserved.
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