キャリアを重ねてわかった河瀨監督の独特な演出術
俳優デビュー作『2つ目の窓』でいきなりカンヌ国際映画祭に参加した村上虹郎だが、河瀨直美監督の演出は独特のものだったという。
村上
:『2つ目の窓』は、自分の中で間違いなく芝居をする上での起点なので、“河瀨メソッド”が僕の中で根付いて、逃れられないものです。
Q.この映画で初めてカンヌ国際映画祭に参加して、同じ時期にカンヌに来ていた『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年)の真利子哲也監督や『さようなら』(2015年)の深田晃司監督と出会ったと聞いています。
村上
:そういう関わり方って面白いですよね。映画ってそういう文化だと思うんです。「映像を残したい」という想いが、「人と繋がりたい」という想いになって、それが「国境を越えてたくさんの人に届けたい」という想いになる。それは「時間を超えても人に届けたい」ってことだと思うんです。そして「人と繋がりたい」のはもちろん「人と話したい」ってことでもある。結果として、カンヌで出会った真利子監督や深田監督とはこのあとご一緒させていただくことになったのですが、映画祭というのはそういう凄い場所なのだと思っています。
Q.『2つ目の窓』のあとに出演された『忘れないと誓ったぼくがいた』(2015年)は、個人的に大好きな作品です。
村上
:まず「映画の撮影にはリハーサルがある」ということに驚きました(笑)あと「同じ芝居をしなければいけない」ということにも驚きましたね。河瀨監督はテイクを重ねる時に、同じ芝居をしたら怒る。「その瞬間を生きているんだから、同じ芝居になるわけないでしょ!」と言うんです。でも『忘れないと誓ったぼくがいた』の撮影現場では「芝居なんだから同じ事をして」と言われた(笑)。それで、河瀨監督の現場が特殊だったのだとわかりました。
Text: Takeo Matsuzaki Photo: Masahiro Yamamoto(Portrait)
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『武曲 MUKOKU』
鎌倉で幼い頃から剣道の達人だった父(小林薫)に鍛えられてきた矢田部研吾(綾野剛)。彼は父にまつわるある事件をきかっけに生きる気力を失い、どん底の生活を送っていた。そんなある日、研吾のもう一人の師匠(柄本明)が彼を立ち直らせるため、剣の道に魅せられた少年・羽田融(村上虹郎)を送り込むのだが…。藤沢周の同名小説を原作に、『夏の終り』(13)に続いて綾野剛と熊切和嘉監督が組んだ作品。本作で村上虹郎は、やがて綾野剛と剣を交え、決闘することとなるラップのリリック作りに夢中な少年を演じている。
2017年6月3日(土)より全国公開
http://mukoku.com -
松崎健夫(まつざき・たけお)
映画評論家。『キネマ旬報』などに寄稿し、『WOWOWぷらすと』『ZIP!』『japanぐる〜ヴ』に出演中。共著『現代映画用語事典』ほか。