『武曲 MUKOKU』で見せた役者としての新境地
『私の男』(2014年)でモスクワ国際映画祭最優秀作品賞に輝いた熊切和嘉監督が、芥川賞作家・藤沢周の同名小説を映画化した『武曲 MUKOKU』。剣道が題材となる本作に対する準備や撮影はどのようなものだったのだろう。
村上
:もともと剣道の経験があって、僕は初段を持っています。だいぶん長い間やっていなかったので、まず2、3度ほど渋谷の剣道場で仮稽古をしました。久しぶりに剣道場に行くと「わ! 剣道場だ」と思ったくらい竹刀の感覚も忘れていて。水泳や武道というのは「やっていなくても体が覚えているもの」らしいのですが、初日はなかなか慣れないのもあって、かなりキツかったです。
Q.ということは、稽古は初段レベルから始めたのですか?
村上
:僕の演じる融(とおる)は、型にはまった剣道が出来ないので「それはちょっと違うかな」と感じていました。むしろ、もっと殺意があって「剣を持って斬り合おうとする」という動物的な感覚が必要だと思いました。牙では噛み切れないので剣で斬る。そんな感覚を融が持つ精神の重きにしました。
Q.撮影は順撮り(※物語の順番に撮影すること)だったのですか?
村上
:順撮りではないです。ただ、クライマッックスの剣道場面の撮影は、いちばん最後でした。それは嬉しかったですし、やりやすかったですね。
Q.例えば、乱闘の場面では本当に竹刀が体に当たっているように見えます。カメラを止めずにワンカットで撮影するのは大変だったのではないですか?
村上
:当たっているときもあります(笑)。もちろん面を着けていない時には、頭へ当てたりしていません。ワンカットで撮影したことに関しては、正直、楽しかったです。撮影は9月頃だったのですが、夜に雨を降らしたり風を起こしたりしたので、むしろ足がぬかるんで、現場がすごく寒かったことが大変でした。あとは、海辺で竹刀を振る場面。海風を浴びるのって、実はとても疲れるんです。見た目はそれほどでもないかも知れませんが、その中で演じることは意外と大変でした。
Text: Takeo Matsuzaki Photo: Masahiro Yamamoto(Portrait)
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『武曲 MUKOKU』
鎌倉で幼い頃から剣道の達人だった父(小林薫)に鍛えられてきた矢田部研吾(綾野剛)。彼は父にまつわるある事件をきかっけに生きる気力を失い、どん底の生活を送っていた。そんなある日、研吾のもう一人の師匠(柄本明)が彼を立ち直らせるため、剣の道に魅せられた少年・羽田融(村上虹郎)を送り込むのだが…。藤沢周の同名小説を原作に、『夏の終り』(13)に続いて綾野剛と熊切和嘉監督が組んだ作品。本作で村上虹郎は、やがて綾野剛と剣を交え、決闘することとなるラップのリリック作りに夢中な少年を演じている。
2017年6月3日(土)より全国公開
http://mukoku.com -
松崎健夫(まつざき・たけお)
映画評論家。『キネマ旬報』などに寄稿し、『WOWOWぷらすと』『ZIP!』『japanぐる〜ヴ』に出演中。共著『現代映画用語事典』ほか。