今さら聞けないアカデミー賞10の常識
2017/02/02(木)
> <

2/4

『Hidden Figures(原題)』 Photo: /AFLO

映画会社はアカデミー賞狙いの作品を年末に“限定公開”する!

5.「直近に観た作品に投票してしまう」という傾向
 
「昨年の映画で良かった映画って何だった?」と聞かれたならばら、恐らく多くの人は、その直近に観た作品名を挙げるだろう。前年の1月~3月頃に上映された作品の場合、記憶が曖昧なのは当然で「あの映画が公開されたのは昨年だったのか、それとも一昨年だったのか?」ということになる。アカデミー会員の多くも「直近に観た作品に投票してしまう」という傾向がある。
 
 
6.前年の1月1日~12月31日の間にロサンゼルス地区で上映すれば条件クリア
 
 ハリウッドの各映画会社はその傾向を戦略の一部に取り入れ、アカデミー賞候補になりそうな作品は、ノミネーション発表の同時期を狙って公開するというのが近年の傾向。しかし、ノミネーション発表は毎年1月下旬に行われるので、年を越して公開すると規定外になってしまう。ここでポイントとなるのが、「ロサンゼルス地区で連続7日間以上の有料商業公開」という文言。極端な例を挙げるならば、前年の12月24日から12月31日の7日間だけロサンゼルスの映画館で上映すれば、アカデミー賞候補となる条件をクリアできるのだ。
 
 
7.“限定公開”という戦略
 
 そこで慣例となっているのが“限定公開”という戦略。ハリウッドの映画会社は、アカデミー賞を狙えそうな自社作品を、ロサンゼルスやニューヨークといった大都市の限られた映画館で、規定ギリギリのタイミングに公開することで条件をクリアさせている。その後、アメリカ国内の各映画賞の受賞結果を参考にしながら、アメリカ全土で“拡大公開”を展開。ノミネーション発表によって作品への興味を一気に引っぱり、興行的にも成功させようとしているのである。
 
 
8.とはいえ、作品に力があることが大前提
 
 今回、作品賞候補となった『Hidden Figures』は、NASAの宇宙計画を影で支えた3人の黒人女性数学者の姿を描いた作品。12月に25館での“限定公開”で上映を開始し、1月に3416館という“拡大公開”したことで、週末の全米興行ランキングでは、圏外からいきなり2位にまで急上昇。興行収入が1億ドルを越えるメガヒットとなっている。それまで注目を浴びていなかった『Hidden Figures』は、戦略が功を奏してアカデミー作品賞候補となるまで伸し上がった訳だが、この戦略はどんな映画にも通用するわけではない。「作品に力があることが大前提」なのだ。

Text: Takeo Matsuzaki

  • 松崎健夫(まつざき・たけお)
    映画評論家。『キネマ旬報』などに寄稿し、『WOWOWぷらすと』『ZIP!』『japanぐる〜ヴ』に出演中。共著『現代映画用語事典』ほか。

MORE TOPICS

SHARE THIS ARTICLES

前の記事へセレブコラム一覧へ次の記事へ

CONNECT WITH ELLE

エル・メール(無料)

メールアドレスを入力してください

ご登録ありがとうございました。

ELLE CLUB

ようこそゲストさん

ELLE CLUB

ようこそゲストさん
ログアウト