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(C)2013- WILD BUNCH - QUAT’S SOUS FILMS - FRANCE 2 CINEMA - SCOPE PICTURES - RTBF (Télévision belge) - VERTIGO FILMS

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普遍的な“恋する気持ち”を描いた美しい映画

2013年カンヌ国際映画祭で最高栄誉のパルムドールを受賞した、女性同士(つまりレズビアン)のラブストーリー。主人公アデルは高校生のとき普通にボーイフレンドもいたのに、道端ですれ違った青い髪の年上女性にひと目惚れをして……。女と女だから周囲から変な目で見られて、みたいな描写も多少ありますが、決して“マイノリティの問題がテーマ”というわけではなく、とても普遍的な「恋をしてしまった人間」が描かれたフランス映画です。全編3時間の作品の中で10年くらいの時が流れるんですが、心情だけでなく年齢的な変化までリアルに演じきった主演女優ふたりの役者魂というか演技力というか、なりきる力が本当にすごい。
 
監督による時間の扱い方も独特です。といっても、ストーリーが前後して理解が難しくなったりすることはありません。アデルの女子高生時代、日常は細かいカットで切り取られているのに、気になる人との会話や校内をひとりで歩いていたりするシーンは長回しで、思春期の子の頭の中がボーッとしてたのに急に冴えたりすることが、絶妙に表現されるんです。ドラマチックに盛り上げる音楽も一切使われていない乾いた演出ですが、手持ちカメラで映された人の表情や風景は非常にみずみずしい。また、ふたりの関係は体だけのつながりではないんですが、普通の恋愛映画よりも明らかにベッドシーンの尺が長いんですよ。よく「女同士のセックスには終わりがない」ということも言われますけどね。長くて、しつこくて扇情的な描写で、けれども美しい。
 
3時間の総尺も、セックスシーンの長さも、長いんだけど不自然じゃない。ふたりの関係が「なぜ始まって、どこに向かうのか」を、へたな“言葉”でなく“映画”として記すための時間です。かっこよく言えば、それは人生の長さ、人が変化するために必要な長さ、あるいはふたりで過ごした時間の思い出の長さなんでしょう。好きだった人と別れた後で、セックスの時間を生々しく思い出すことってありますよね。
 
前回の『ラヴレース』もそうでしたけど、この映画でも、恋愛という現象のセオリー「“ここではない、どこか”へ連れていってほしいと憧れる気持ち」が描かれます。アデルみたいに自意識の強い少女にとって、普通に自分に声をかけてきてくれた普通の男の子と付き合うことは、イヤじゃないんだけど刺激的ではないんだよね。最初から好きだと言ってくれる相手というのは「今現在の彼女を肯定してしまっている」わけだから、彼女をどこか別世界に連れていってくれたり、“今とは違う彼女”に変身させてくれたりはしないわけで。ということは、ちょっと危険な相手であっても、やはり「こちらから恋をしないと、気が済まない」ものなんです。
 
アデルが恋する青い髪のエマは、悪気はないんだけど、レズビアン版ヤリチン。っていうと言いすぎかもしれないけど、アデルにとっては刺激的で愛おしすぎて、関係を続けていくことがやがて苦しくなっていく相手。でも、そういう相手が若いアデルには必要だったんです。

「【第6回】『アデル、ブルーは熱い色』の、“相手を大切に扱う”愛に満ちたセックス」トップへ
  • 二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)も好評発売中。
    http://nimurahitoshi.net/

  • 『アデル、ブルーは熱い色』
    監督・脚本/アブデラティフ・ケシシュ
    原作/ジュリー・マロ 『ブルーは熱い色』(DU BOOKS刊)
    出演/レア・セドゥ、アデル・エグザルコプロス、サリム・ケシゥシュ
    配給/コムストック・グループ
    公式サイト/http://adele-blue.com/
    2014年4月5日(土)~、新宿バルト9、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー

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