特集
2016/10/31(月)
ELLEonline20周年記念企画

働く女性とウェブの20年史【開拓期編】

エル・オンラインがスタートした1996年を起点に、「ウェブの歩み」と「働く女性」の20年の歴史をひも解く特別連載。第三回となる今回は、メディアが紙からウエブへ移行する過渡期に出版に携わり、代表として「インフォバーン」を立ち上げてからも日々情報の流通の変遷を目の当たりにしてきた、今田素子さんが登場。二児を出産し育てながらウェブ業界の荒波を渡ってきたスーパーワーキングマザーが、当時を振り返る。

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出版業はデジタルとは切り離せないことを予見

「ちょうどわたしが大学を卒業した1989年が、女性が初めて総合職に採用された年だったんです。当時は“寿退社”がまだまだポピュラーでした」
 
そう語るのは、1967年生まれの今田素子さん。企業のデジタルコンサルティングやウェブプロモーション、コンテンツ制作などを株式会社インフォバーンと、ブログメディアを運営する株式会社メディアジーンの2社を起業、現在も代表取締役として活躍する女性だ。
 
京都で出版社を営む家に生まれ育った。中高時代は伝説のサブカル雑誌『ビックリハウス』を読み漁り、地元のライブハウスでインディーズ・バンドに熱中するなど、オルタナティブなカルチャーにどっぷりハマって過ごす。その頃から、将来、起業することはイメージしていたという。
 
「幼い頃から、両親からは家を継いでほしいと言われていたので、自分で事業をやるんだなという意識はありました。ただ、母が『女性は働いて自立するべき』と考えていたのに対し、父は『婿を取って継いでもらえ』という発想。その古風な考えへの反発心から、自分でやってやる!と思ってましたね」
 
京都の大学を卒業したあとは、憧れのロンドンへ飛び、アートスクールで2年半学ぶ。帰国後は、修業を積むつもりで実家の出版社に入社。もともと仏教書の出版や印刷から始まった会社で、百科事典なども手がけるほか、たとえば、フランスのガリマール社刊行の当時世界で最も売れていた旅のガイドブックの日本語版を発行するなど、海外の出版物のライセンスを獲得して日本版を制作する仕事も多く、今田さんが担当したのもその分野。日本版の書籍や雑誌の出版事業に携わる中で、いち早く、デジタルで雑誌を作る作業も経験した。「これからは出版業も、デジタルとは切り離せない時代になる」と意識し始めた頃、さまざまな縁から、インターネットやビジネス、カルチャーなどのトピックスを取り上げるアメリカの雑誌『WIRED(ワイアード)』を立ち上げる話が浮上する。
 
「MITメディアラボを創設したニコラス・ネグロポンテさんが『君たちはワイアードの創業者とたぶん気が合うと思う』と引き合わせてくださったんです。彼らはかねてから『ワイアード』の日本版を作りたいと思っていたようなんですが、門戸を叩くと男の人がスーツで出てきて、『インターネットって何ですか?』という状態で(笑)、これはもう日本では無理だと思っていたみたいで」
 
今田さんと創業者は意気投合し、1994年11月、実家の出版社の関連会社から出版する形で日本版『ワイアード』を創刊することに。
 
「記者会見を開いたら、とある有名な新聞社の男性記者が手を挙げて『日本でインターネットなんて流行るわけないのに、なぜ創刊するんですか?』と……。今となっては笑い話ですが、当時はそんな時代だったんです。もちろん、理解してくれる人も少なかったですね」
 
ここ日本において、出版メディアが紙からデジタルへと少しずつ推移していく、その流れの超初期の段階で一石を投じたのが今田さん、つまり女性であったという事実が興味深い。一般的に、男性より女性のほうが柔軟で、環境の変化に適応する能力が高いといわれる。時代の変化を敏感にとらえるのが得意な女性たちは、ファッションのトレンドを巧みに取り入れるように、日進月歩のデジタル社会とも上手につき合うことができるのである。このことは、デジタル社会における女性の優位性のひとつといえるだろう。

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Text: Kaori Shimura Illustration: Adrian Hogan

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