特集 2015/6/25(木)
写真家・大串祥子さんが語る! ウィリアム王子の母校、潜入撮影記

女子禁制! 美少年たちの秘密の花園イートン校とは?

男子だけが入学することを許される英国パブリックスクール。その頂点でもあるイートン校は、とりわけ英国式階級のトップに君臨する良家の子弟が集まる“秘密の花園”。政界からハリウッドまで活躍する世界的な人材を生み出すことで知られているが、その内幕が晒されることはなかなかない。ところがそんな禁断の扉を開けたひとりの日本人女性写真家がいた! 特別な許可を得た貴重すぎる写真と彼女の言葉を読み解きながら、イートン校の知られざる謎と美をここに公開。

ティム君の燕尾服姿。日々の制服として着なれた人の着こなしは見事。着衣の基本を叩きこまれた人だけが知る本物の着崩し方は、ある意味和装と通じる部分があるのだとか。

© SHOKO OGUSHI

美少年=非合理性の存在

稲垣足穂も述べた通り、美少年とは非合理性の存在。私はそう思っています。美少年は組織で開発され、組織でしか生きられないけど、特別である彼はその枠を侵犯してしまう。美少年とは相対的ではなく、絶対的な存在なのです。「全部思い通りになると思うなよ」という純粋さは、危うさにも通じ、それこそが少年期の一瞬の美ではないでしょうか。

イートン校を代表する美少年として、どうしてもティム君のポートレートはボウタイ姿でなければならない、と私は思っていました。ボウタイは最上級生のみが着用を許されるもの。当時4年生の彼は寮に走って戻り、先輩から借りてきました。簡単に調達できたことから推測するに、孤独を好み、ひとり群れから離れて行動する彼も、人的ネットワークはきちんと構築していたということでしょう。撮影中にご学友が通りかかり、タイを締める姿をからかうと、ティム君は平然と言いました。「俺は表紙になるんだよ」

フラワーハットをかぶった生徒たちが、敷地内のテームズ川にボートを漕ぎ出し、号令の下、ボートの上に起立し脱帽、花を水面に散らす優美で幻想的な船列。

© SHOKO OGUSHI

イートン校カツアゲ事件。英国ファッションと切り離せない“階級”

イートン校の生徒が学校を取り囲む壁の外に出ると、カツアゲに遭うこともしばしば。学校をでればそこはウィンザーという小さな街。まだ10代の少年であっても、どんなにカジュアルにしていても、生徒たちの様子はひと目で上流階級と判断がつき、目をつけられてしまう。

なぜそれほどまでにはっきりと服装に際立つ差が出てしまうのかといえば、英国紳士のファッションは、階級をはじめとする属性を見せるための記号であり、美意識だからです。イートン校内の制服でも格差があります。学業優秀な奨学生「キングズスカラー」の生徒は、燕尾服の上にガウンを羽織っているので、遠くから見ても別格であることが分かります。また、生徒たちの投票で選ばれる人望の厚い最上級生の代表は、“POP”と呼ばれる好みの柄でオーダーしたベストを着用することができます。ファッションによって、誰がどんな役割なのか、どういうステータスにいるのか、どの階級に属するのかが、はっきりと分かるようになっています。イートン校では、先生自らお手本のような完璧な燕尾服の着こなしで身なりを整え、誰一人だらしない格好で人前には出ません。生徒たちは、上流階級のドレスコードを、毎日の習慣として教え込まれます。隠せない品格というものは私服のときもにじみ出てしまうのです。

“Fourth of June”の帽子を飾る花は、漕ぎ手が自ら飾り付けていく。この日だけ着用するボートウェアは寮ごとに異なるデザインとなっている。

© SHOKO OGUSHI

麗しき花で飾られた“Fourth of June”

全寮制であるイートン校で、唯一学外の人を招待できる “Fourth of June” と呼ばれるお祭りがあります。家族や友だち、ガールフレンドを呼んで学校を案内したり、日頃の成果を見せながら、いつもの真面目な様子と違って、リラックスした表情の生徒たちを見ることができる一日です。お昼には家族とお弁当を囲んでピクニックを楽しみます。併設の駐車場に停まっている車が、ベントレー、ロールスロイスのような高級車であることを除けば、ごくありふれた平和な風景がそこにはあります。

“Fourth of June” のメインイベントが “Procession of Boats” です。その日だけ着用できるボートウェアは、25の寮ごとにデザインが異なります。麦わら帽子にはボートに乗る少年たちが自ら花を飾り付けます。ボートはイートン校の敷地内を流れるテームズ川(私有地)に漕ぎ出し、誇らしげな家族の前で、漕ぎ手たちはゆっくり起立し、帽子を脱ぎ、花を水面に散らすのです。

>>次のページでは、16年越しに公開が許された、ウィリアム王子の“お宝写真”にまつわる貴重な秘話をおまけで紹介。

  • 大串祥子 (写真家)
    佐賀県生まれ。東京外国語大学イタリア語学科卒業。株式会社電通にてコピーライター・CMプランナーとして勤務。 退社後渡英、ロンドン・カレッジ・オブ・プリンティング・ディストリビューティブ・アンド・トレード(現:ロンドン・カレッジ・オブ・コミュニケーション)写真学部フォトジャーナリズム学科(Postgraduate Diploma)にて写真を学ぶ。
    在学中に始めたプロジェクト『アドニスの森 Men Behind the Scenes』では、イギリスの名門パブリックスクールイートン校、ドイツ国防軍の兵役、コロンビア軍麻薬撲滅部隊など、秩序、制服、階級、不条理にいろどられた究極の男性社会に潜入し、女性の視線から男性の美と謎を追い求めている。
    2004年より近代五種を撮影開始。2008年北京五輪における国際近代五種連合UIPM公式フォトグラファーに任命され、同種目を撮影。 2009年ドイツのRalf-Hellriegel-Verlagより写真集『MODERN PENTATHLON』を出版。 2011年3月11日の東日本大震災を機に、故郷・佐賀へ居を移す。
    同年秋から13年夏にかけて、『アドニスの森 Men Behind the Scenes』 第2章 アジア篇を中国・少林寺にて撮影。
    2014年11月、写真集『美少年論 Men Behind the Scenes』を佐賀新聞社より出版、同月、銀座ヴァニラ画廊にて、同テーマの個展を開催。

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