初めて松坂桃李を取材したのは『アントキノイノチ』だった。若いのにずいぶんと落ち着いてしっかりと話す姿が印象的だった。あれから5年。何度かインタビューをしているけれど、いつも、どんなに忙しくても、謙虚で穏やかな態度は変わらない。テンションも上がりすぎず、下がりすぎず。なのに、現場ではいきなりトップギアの演技を見せ、周囲を驚かせる。公開中の『秘密 THE TOP SECRET』では少ない出番で主役を食う存在感を見せた。ここのところ、癖のある役どころが続いたが、新作映画版『真田十勇士』では2年前の同名舞台でも演じた超二枚目、霧隠才蔵に扮する。
 
――今回の霧隠才蔵は久しぶりに正統派の二枚目役ですね。
 
そうですね。ここのところ、変な役が多かったですね(笑)。今回は完全なるヒーロー像のような、そういった役柄をやらせていただきました。
 
――意識的にそういった役を選んでいたんですか。「かっこいい役はもうしばらく、いいや」と思っていたとか？
 
いいやとは思わなかったですけど、自分のハードルをちゃんと上げるために、自分のなかで、まだやったことのない、自分でもどうなるか、わからないような作品や役に挑戦していきたいという思いがあったんです。自分の性格を分析すると、そういうことをしていかないと、どうしても、そのままでいいと思ってしまう傾向があるんですよね。ありがたいことに「未知の領域で、ちょっと、わからないけど、やってみましょう」という作品が何本かあって、それでちょっと続いたんです。
 
――今回はハードルは無視して(笑)。
 
今回は(舞台の)初演で一度、作っているので、それを鑢で磨くような作業というか、ベースラインは出来上がっているので、より人物の細かい部分を自分でピックアップして、大事にしていくような感覚でしたね。
 
――じゃあ、今回は役作りに何か特別な期間を設けたりというのはなかったんですか。
 
ないです、ないです。
 
――では、毎回、現場に行って、堤監督とのセッションを楽しむような撮影だったのでしょうね。
 
なんかもう、堤さんのおもちゃ箱のなかに入るような感覚ですね。
 
――おもちゃにされましたか(笑)。
 
そうですね。もう、堤さんの脳の中に入り、そこで踊るしかないような状況でした(笑)。
 
――堤さんは撮影のときに無茶な注文をすることで知られていますが、今回はどうでしたか。
 
いっぱい、ありましたよ。「馬と一緒に走ってくれ」とか(笑)。「才蔵は飛ぶから」って言われて、グリーンバックのところで、いきなり吊られたり、すごかったです。確かに急に予期せぬ要望が飛んで来たりするので、その球をちゃんと捕れるくらいの数のグローブを用意しておかないといけませんでした。もうパパパパパっとあたかも手がいくつもあるかのように。
 
――「これ、無理！」とか言いたくなりませんか。いちばん無茶だったのは？
 
やっぱり、馬と走る(笑)。しかも、忍者なので、「腕を振らずに。サササササっと走ってくれ」って言われたんです。いまの漫画でいえば、「NARUTO -ナルト」のような感じです。忍者といえば、タタタタタ～っと走る。
 
――「無理です」って、言ったことはありますか。
 
いや、絶対にそんなことは言いません。「なっかなか、無茶だな」とは思いますが……。
 
――そういう時は「なにくそ」と気持ちに火がつく。あるいは一緒になって、楽しんでやろうと思うとか、どんなタイプなんでしょうか。
 
まあ、後者の方かもしれないです。「わかりました。どうなるかわからないですけど、とりあえず、やってみます」って言いますね。