またひとつ消えゆく? シンガポールの銘菓「Muah chee(ムーチー)」
一見ただのきな粉餅のような素朴なルックスの「Muah chee(ムーチー)」。お餅好きの私にはたまらないひと品。でも食べると少しお餅とは違う食感……作ってみて初めてわかったそのわけとは? そこで、この素朴な餅スイーツを、作り方と一緒にご紹介したいと思います。
シンガポールは国としては若いですが、元来の民族達によって受け継がれてきた昔ながらのおやつがいっぱいあります。「世界のおやつ」シリーズで最初に紹介させていただいた「Kueh tutu(クエ チュチュ)」もそのひとつでした。その時にも書かせていただいたんですが、これら伝統的お菓子達、今では店頭で売られるものとしては消えゆく存在のように思います。急速な発展によって次々と登場してくるモダンなお菓子達に追いやられているのでしょうか? 店舗賃料の値上がりなどといった理由もあるかもしれません。今回ご紹介する「Muah chee(ムーチー)」もその昔は屋台などでよく見かけられたおやつですが、その数はすごく減って来ています。
そんな中、「Hougang 6 Miles Famous Muah Chee(ホウガン 6マイルス フェイマス ムーチー)」は創業1952年という歴史ある名店で、今もなお奮闘中です。元々はお店の名前の通りHougang(ホウガン)地区にあったのですが、現在はToa Payoh(トア・パヨー)にあります。
「Muah chee(ムーチー)」はピーナッツ粉と白胡麻を合わせた衣をまぶしたお餅で、お餅を少しちぎって、衣をまぶしながらさらに小さく刻んで作るおやつです。もちもち感がたまらないです。「Muah chee」と読むと「モーチー」と似ているので、何か関係があるのかと思ったのですが、潮州語で音的に「Muah」は「Full」、「Chee」は「Money」で、その意味から付いた名前とされていて、昔はお祭りの時に神様にお供えしたお菓子でした。
多くのお店が工場で作られたミックスピーナッツ粉を使うところをこちらのお店は自家製粉を使用しています。オーナーTeoさん自ら皮付きピーナッツと白ごまをローストし、これを細かく粉砕し、砂糖を混ぜて作られています。自家製粉とすることでとてもまろやかな香り高いふんわりした衣になります。実際、食べた瞬間にピーナッツの香りが口いっぱいに広がるのでその違いははっきりとわかります。黒ごま味もあります。(写真右)これもまた止められないお味!
またお餅が熱いため、普通はこのようにトングとハサミを使って細かく刻んでいくのですが、
口当たりを良くするためTeoさんは熱いお餅を手でちぎり、ステンレスのスケッパーでさらに細かく刻んで行きます。その鮮やかな手さばきに見惚れてしまします。熱くないのでしょうか?……
やはりこのひと手間も食べ比べるとはっきりと違いがわかります。切り口が固くならず断然口当たりがいいですし、ひとつひとつがくっつき合わずに独立しています。
お餅もパンダンリーフで少し香りを付けてあったり、ちぎったお餅を衣にまぶす前にエシャロットオイルを少しつけたりでコクが出ていて、食べ応えがあります。このオイルは? とよく聞かれるのでしょう、私も聞いてみるとエシャロットをすぐに見せてくれました。
Teoさんが「Muah Chee Master(ムーチーマスター)」と呼ばれるのはこう言った細かいひとつひとつの過程に惜しみない手間をかけているからでしょうね。
>>次のページでは「muah chee(ムーチー)」のレシピを紹介!
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Hougang 6 Miles Famous Muah Chee (ホウガン 6マイルス フェイマス マーチー)
Gourmet Paradise Food Court 480 Toa Payoh Lor 6 HDB HUB #B1-01(stall 21)
営業時間/11:30~21:30
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ぜひ食べてみたいけどあまり遠くまで行ってる時間がない! って方は、Master(マスター)のお店ではありませんが、
Queensway Lau Tan Tutu Kueh(クイーンズウェイ ラウ タン ツツ クエ)
Orchard ION #B4-32
営業時間/10:00~22:00 -
haru●商社に勤務後、1997年に渡仏。フランス・パリRits Escoffierにて製菓のDiplomeを取得した後、Hotel Ritsにてスタージュ。1999年2月より13年間、東京駒沢の自宅にてEcole de patisserie chez haruを主宰。現在、シンガポールに場所を変えて活動中。新店mp立ち上げ、メニュー開発、レシピ提供をしている。
http://www.mangosteen.com.sg/lesson/culture-cake/