お互いの体を大切にするセックスがエロティック
出会ったころは美大生で、アーティストとして成長していくなかで“何かを作っている自分”というものをいちばん大切にしてしまい、魅力的だし才能もあるから大勢の人からチヤホヤされて、いろんな人や場所に愛を注ぐエマ。何かから愛されると愛を返してしまうエマは、彼女に恋してるアデルにとってはヤリチンでしょう。アデルのことも心から愛してはいるんだけど、アデルだけに愛を注ぐわけじゃない。それに傷ついたアデルは、どんどん面倒くさい女になっていってしまう。 屈託していた女子高生アデルを“生きていきやすい”ように別世界に連れ出して、変えてくれたエマだったのに。
このふたりの関係、レズビアンの恋愛だから見えづらいけど(いや、だからこそ妊娠とか正式な結婚といった社会性が挟まらず、明確に描かれてるって言えるのかな……)、エマという女性には男性性があるんです。象徴的なのが、ある夜アデルがセックスを求めたらエマが「今日は生理だから、できない」って答えるんですけど、その言い方が、男が「今日は疲れてるんだよ……」と言って背中を向けて寝ちゃうのとまったく同じ。それでアデルは寂しくなって男と(!)浮気するんだけど、エマは自分だって他の女に目がいってるくせに、アデルの浮気には怒り狂う。
エマは“愛されているから、安心して”他の人や仕事のことも愛しちゃう。
アデルは“愛されてないような気がして、寂しい”から、浮気をしちゃう。
タイトルの『ブルーは熱い色』ですが、やがてエマは大人になると髪の色を落とします。若いころ、青く染めていたころは“サブカルこじらせ女”っぽかったけど、生まれつきの髪の色に戻したらイケメンになりました(笑)。絵の仕事で食べていこうって覚悟を決めたのか、もう自分は子どもじゃいられないと思ったのか。でも本質は変わらず子どもっぽいですけどね。そしてエマに憧れてるけれど実はすごく平凡な女の子であるアデル(あなたには文才があるんだから小説を書くべきよ、とすすめられても書かなかった)への思いは冷め、母性が豊かそうな別の女性に惹かれていく。彼女のほうがエマを甘やかしてくれるからでしょうか。ふたりで女同士でも“家族”になれるからでしょうか。アデルにとっては、めちゃめちゃ悲しい話だなあ。
そんなアデルとエマだけど、心が結ばれていた時代は本当に幸せに満ちた、とてもエロティックなセックスを見せてくれます。お互いに相手を強烈に欲していて、その欲望を認めあって、激しく体を求めているのに暴力性はまったくなくて優しい。この映画は、相手の体を丁寧に扱うことがいちばんエロいことなんだって気づかせてくれますね。男性でも女性でも、セックスという行為に興味や思い入れがある人は必見だと思いますよ。エロいし濃厚だし、出演者も真剣に(本気で?)演じているんだけど、男女のセックスを描いた映画よりもエグくないし殺伐としたところもない。純粋に美しい性描写です。男性である監督の「女性の肉体は愛おしいものだ」という視点が効いているのかもしれない。
女性にとって、男とのセックスってどこか暴力的というか、“支配される”とか“奪われる”っていう感覚が伴うんじゃないかと思うんですが、どうでしょう? それが良いんだという意見もあるだろうけど、女性同士のセックスのほうが相手の体を尊重できるということもあるんじゃないでしょうか?
話は映画から逸れますけど、僕の本業であるAVはポルノグラフィで男性向けエンターテインメントですから、愛を描きすぎてしまうと視聴者が男優に嫉妬します。観てる男性が「俺がやってる」って思えるかどうかが勝負だから、男優と女優が愛し合うのはマスターベーションの邪魔なんです。ところが、そうやって制作してると、本来セックスは愛の行為だってことを忘れちゃうんですよ。現代の実写のポルノで“愛のあるセックス”を描けるのはレズビアンものだけなんじゃないかと思う次第です。
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二村ヒトシ/アダルトビデオ監督。1964年六本木生まれ。慶應大学文学部中退。1997年にAV監督デビュー。痴女もの、レズビアンものを中心に独創的な演出のアダルトビデオ作品を数多く手掛けるかたわら、『すべてはモテるためである』(イースト・プレス刊)、『恋とセックスで幸せになる秘密』(同)などの著書で、恋愛やモテについて鋭く分析。女性とセックスを知り尽くした見識に定評がある。最新刊『淑女のはらわた』(洋泉社刊)も好評発売中。
http://nimurahitoshi.net/ -
『アデル、ブルーは熱い色』
監督・脚本/アブデラティフ・ケシシュ
原作/ジュリー・マロ 『ブルーは熱い色』(DU BOOKS刊)
出演/レア・セドゥ、アデル・エグザルコプロス、サリム・ケシゥシュ
配給/コムストック・グループ
公式サイト/http://adele-blue.com/
2014年4月5日(土)~、新宿バルト9、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー