「その手法や美意識は、どう見てもヒップホップなんだよ!」ヒップホップという常識が通用しない日本
― 最後に、宇多丸さんは映画評論家としての顔もお持ちですが、'90sヒップホップファッションが楽しめるおすすめの作品があれば、教えてください。
うーーーん。「イケてる」って感じなのがあんまりないんだよなぁ。あえて言えばやっぱりスパイク・リー監督の映画。あとはドキュメンタリーですが、『ビーツ、ライムズ・アンド・ライフ - ア・トライブ・コールド・クエストの旅』。NY発、ア・トライブ・コールド・クエストのメンバーのひとり、Qティップはおしゃれすぎて一般的かというとちょっと違うんだけど、まぁ当時からヒップホップ界で一番おしゃれな人だったのは間違いありません。
ただそのヒップホップに対する“一般的”な感覚に対して、欧米と日本では大きな違いがあるんですよね。ある程度の年齢、30~40代で、なんというかな、イケてる人は'90sヒップホップを通ってるもんなんです。普通にみんな「あ、それそれ、懐かしいよね」となる。日本ではそこがまったく共有されていない。
例えば、クエンティン・タランティーノの映画って、ものすごくわかりやすくヒップホップ的な感覚に根ざしているわけですよ。タランティーノ映画の魅力を「ヒップホップ」っていう言葉を使わずに語るのは、無理があるだろ、と思うくらい。タランティーノ本人も「俺はいつでもヒップホップの考え方に沿って映画を作ってる」って公言してるし。『ジャンゴ 繋がれざる者』なんかモロすぎなくらい! でも、日本の映画評ではまずそういう語られ方はしない。逆に、僕が「ヒップホップの人」だから無理やりそっちに引き寄せちゃってるんでしょ、とか思われる。違うっつーの! 手法から美意識から何から何かまでどう見たって「ヒップホップ育ち」な人が作った映画なのに……とにかく、ベースにはやっぱり無意識の人種差別があると思うんだけど、日本ではヒップホップというのが軽視・無視されてきた歴史があるんだよね。これは日本の完全なハンデ。
― ただ、日本のファッションではヒップホップ要素が一般化している気がします。
ヒップホップやグランジ以降の90年代は、世界的におしゃれというものが、一気にストリート化、カジュアル化した時期なんですよ。それ以前は、「アディダス」がおしゃれに組み込まれることなんてあり得なかった。特にメンズに言えることだけど、帽子を被るってこと自体が死に絶えた伝統だったわけですよね。80年代の雑誌を見ると、帽子なんて誰も被ってないから。
だから、みんなもう忘れちゃってるけど、今のファッションでヒップホップ要素というのは普通になっているんですよね。ただ、その中であえて言えば、先ほど挙げたような象徴的なアイテムもある。'90sヒップホップファッションを楽しむなら、このあたりをうまく取り入れるといいんじゃないかと思います。
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『ドゥ・ザ・ライト・シング』DVD
1,500円(税込)
発売元:ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント -
『ビーツ、ライムズ・アンド・ライフ - ア・トライブ・コールド・クエストの旅』DVD
3,990円(税込)
発売:株式会社トランスフォーマー -
『ジャンゴ 繋がれざる者』
ブルーレイ&DVDコンボ (2枚組)【通常版】
4,980円(税込)
発売・販売元:(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
セルブルーレイ&DVDセット品番:BRL-80279
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PROFILE/宇多丸
ヒップホップ・グループ「ライムスター」のラッパー。日本にヒップホップというカルチャーが定着していなかった80年代後期にラップをはじめ、1989年にマミーDとライムスターを結成。ライブ活動を中心に支持を集め、1993年にインディーズ・デビュー。2001年のメジャー移籍など、着実にキャリアを積み重ねて2007年3月には日本武道館での単独ライブで大成功を収めるも、これを最後に一旦グループ活動を休止した。2009年10月に活動を再開し、ここからさらに毎年リリースするアルバムのすべてがTOP10ヒットとなるなど快進撃を続ける。近作は2013年1月の9thアルバム『ダーティーサイエンス』。
最近ではラジオ・パーソナリティ、文筆家としても活躍。幅広い知識に裏打ちされたエンターテイメント性に富む語り口で人気を博す。レギュラー番組にTBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」、TOKYO MXテレビ「5時に夢中!サタデー」など。2009年「ギャラクシー賞」DJパーソナリティ部門を受賞。
http://www.rhymester.jp