インタビュー 2017/5/26(金)

カンヌ常連監督、河瀨直美が描く珠玉の愛の物語

視力を失いつつある弱視のカメラマンと映画の音声ガイドを作っている女性が、ときにはぶつかり合いながらも希望を手繰り寄せていくラブストーリー『光』(2017年5月27日公開)。カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品され、受賞結果にも注目が集まっている最新作について、河瀨直美監督に聞いた。

――前作の『あん』で視覚障碍者の方に向けた音声ガイドを作ったことが『光』を撮るきっかけになったそうですね。
 
映像に託した思いを言葉だけで説明する音声ガイドの原稿を読んで、表現方法として素晴らしいものだと感じたんです。それと同時に私自身が、“映画って何だろう? というテーマにあらためて向き合うことになりました。
 
――永瀬正敏さんとは『あん』に続いてのタッグとなります。
 
永瀬さんはこれだけ長い間、俳優という仕事を続けているのに、嘘のつけない生身のところがある人。永瀬さんのような資質の人は、時間をかけてまっすぐに役と向き合える映画の現場が合っているような気がするんですね。河瀨組では俳優にセットのなかで暮らしてもらい、彼らにとって邪魔になることはできる限り排除していきます。自分と役との境界線がなくなったときにものすごいリアリティが出るので、それが可能になる場所を作りたいと思っているんです。俳優はみんなプロなのだから、そこまでしなくてもできるという考え方もあるかもしれません。でも私は、みんなで本気で嘘をつくという姿勢があるからこそ、さらに上のレベルに行けるのだと思っています。
 
――日差しや夕日など、“光”の持つ美しさが大きな意味を持つ映像になっています。撮影監督とはどのようなコラボレーションをしたのでしょうか?
 
撮影は『あん』でスチールカメラマンをやってくれた百々新さん。映画の撮影監督は今回がはじめてですが、対象に向き合うまなざしを信頼していたので、迷わずお願いしました。私が20代の頃からのつきあいですし、お正月に一緒に餅つきをするような姉弟みたいな関係なんです(笑)。言葉にしなくても、すべてをわかってくれましたね。

 

 

――劇中劇の監督を演じているのは、藤竜也さん。ヒロインの美佐子と、映画のなかの希望について語るシーンがとても印象的でした。
 
映画と人生の両輪がある作品にするためには、自分の人生の終焉を意識しながら脚本を書いている映画監督を、ぜひ藤さんに演じてほしいと思いました。あのシーンに脚本はあったのですが、遠くを見る目などは藤さんに委ねて出てきた表現です。美佐子と握手をするシーンもアドリブですね。映画に希望を求めている彼女を理解しながら、もっと複雑な人間の無常観についても伝えようとしている。その包容力は藤さんだからこそ、でしたね。試写を観たすぐあと、「魂を揺さぶられた」という言葉をいただきました。映画人としても尊敬できる方です。
 
――『萌の朱雀』で劇場映画デビューを果たしてから20年。女性監督として国際的に活躍し続けるのは困難なことでしたか?
 
私自身はそれほど意識していませんが、女性監督はまだ少ないので、カンヌでも配給会社やパブリシストの女性たちは“直美があの舞台に立ってくれるのは、私たちにとっても誇りなのよ”と言ってくれます。仕事をするときに気をつけているのは、ファイティング・スタイルをとらないこと(笑)。働く女性として素敵だなと思うのは、友人でもあり、映画とも関わりが深いデザイナーのアニエスです。いつもかわいくて軽やかで愛にあふれている、彼女のようになっていきたいですね。

Photo: SATOKO IMAZU(Portrait),©2017“ RADIANCE ”Film partners/ Kinoshita 、Comme des cinemas 、Kumie(still)

  • かわせなおみ/奈良県生まれ。ドキュメンタリー『につつまれて』『かたつもり』で脚光を浴びる。'97年の劇場映画デビュー作『萌の朱雀』でカンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を受賞。'07年に『殯の森』で同映画祭審査員特別大賞グランプリを受賞。

  • 『光』
     
    迷いながら生きる美佐子(水崎綾女)は、情景を言葉で説明する視覚障碍者向けの「映画の音声ガイド」の仕事を機に、視力を失いゆく天才カメラマンの雅哉(永瀬正敏)に出逢い、彼女の中の何かが変わりはじめる……。
    2017年5月27日(土)より、新宿バルト9、丸の内TOEIほかで全国公開。
    http://hikari-movie.com/

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