言葉より表情を感じ取る
―“聞く”うえで高いレベルに自分を持っていくため、必要な資質には何があるのでしょうか?
吉川:まず、相手の表情や体全体から発するものを感じ取れるか、ということだと思うんですね。たとえば、最初の質問には目をみて「はい、そうです」と答えた。けれど、次の質問には目を泳がせて「はい、そうです」と答えたとか。それをとらえて、次の質問の仕方を変えるなどなど、相手の心を読むこちらの心の力が必要ですね。そのためには自分自身の感情が豊かであることや、自分の生き方に関して失敗や、うれしい体験、悲しい体験などさまざまな人間としての経験があること、つまり人間力があればあるほど、相手からそれを感じ取ることができるような気がするんです。
―今、“読み取る”という力が弱くなっているのでしょうか? 若い人だけでないと思いますが……。
吉川:20年前からそんな気はしています。若い人の表情が豊かじゃなくなってきているような気が……。不思議でならないのですが、喜怒哀楽が表情として表れない。年上の人間に緊張しているからなのか、たくさんの人と接していなくて、仲間内でしかコミュニケーションをとっていないからなのかわからないのですが、表情がないんですよね。
昔だったらものを買いに行くときに、商店街でお店のおじさん、おばさんだったりと話していたところ、今は応対がマニュアル化されてしまって、お店の人とも会話を交わさなくても、買ったり食べたりできるようになった。人間的なものがなくなったからかなという気もします。
また、以前は月刊誌がありました。そこに書かれているのは、1カ月もつ情報だったんです。つまり、1か月たっても色あせない情報だった。それが週刊誌になり、1週間もつ情報にとってかわられた。新聞だって1日もちます。ところが今は速報性が重要なので、2時間しかもたない情報がたくさんあるわけです。そのへんのところで、じっくり何かを考える、自分なりに考えるという時間がなくなってしまったので、相手の表情もすぐに判断できるものしか受け取らなくなり、表情の裏側にある複雑ななにかを読み取って、じっくり考えるということが苦手になっているような気がします。
―怒ったら、「怒っている」ということしか受け取らないということですね。
吉川:笑ったら「喜んだ」としか判断しなかったり、怒られたらその時に「怒られた」ということしか受け取らない。怒るという行為には、「こうしてほしい」といった裏側の意図があるわけなのに……。
―嫌味に笑っても嫌味が通用しないとか、非常に単純化されたリテラシーだと……。
吉川:メールの絵文字っぽいですね(笑)
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Profile : 吉川美代子(よしかわ・みよこ)
TBSテレビアナウンサー。TBSニュース解説委員。編成局アナウンス部担当局長。看板ニュース番組「JNNスコープ」にて女性初のキャスターに抜擢され、19年間看板キャスターとして活躍し続けた。2014年5月31日付けで定年退職後、フリーアナウンサーとして活動するとともに、引き続き後進育成に勤しむ予定。近著に近年の“女子アナ”に対しての厳しい視線を盛り込んだ、『愛される話し方』(朝日新書)など。