イザベル・ユペール×是枝裕和が語る映画と女性とフェミニズム
6月23日(金)に飯田橋のアンスティチュ・フランセで開催された「ウーマン・イン・モーション」。是枝裕和監督を迎えて行われた対談の場に潜入。来日したイザベル・ユペールが語る女優人生と、そこから見えてくるフェミニズムとは?
「世間にとって見るに望ましい女性像」に対抗
ユペールは誰もが共感も同情もできないようなインモラルだったり極端だったりする女性キャラクターに、演技でリアルな人格を与え、意外な共感性もたらす。それは結局、「世間にとって映画で見るに望ましい女性像」に対抗することでもある。
https://www.youtube.com/watch?v=Yy3i9rea4ag
『エル ELLE』で演じたミシェルは、ひどい性表現が盛り込まれたゲームを開発しながら、親友の夫と不倫までしている“モンスター”。しかしレイプされても尊厳を失くすことなく立ち上がる姿は、怯え、泣き、「自分にも落ち度があった」と自責する“望ましいレイプ被害者像”をひっくり返してくれた。闇で堕胎を施し金を稼ぐマリーは、「中絶は恥ずべきこと」と女性の人権を蹂躙する“良識”を、ユペールが言うように“偽善”と吹き飛ばしてくれる。そしてエリカは、恋愛コミュニケーションに障害をもつ女性を嘲笑う世間に、母娘依存の犠牲者としての側面を見せることで共感させてくれた。
キャリアそのものがフェミニズム
『主婦マリーがしたこと』が受けた宗教団体からの攻撃に関する会場からの質問に、カトリック教育を受けて育ったユペールが出した解答は秀逸だった。
「映画が宗教や社会を破壊しているといわれることがある。でも(小説の)『罪と罰』が何をもたらしたか、議論の余地はないでしょう? 映画は文学と同じ。感動を集団に与えることができる。なのに、ふだん映画はそのようには語られない。それだけよ」。
ドストエフスキーが宗教と階級制度に対抗したのと同じ知性とエネルギーで、ユペールは映画界が是とする女性像に真っ向から喧嘩を売っている。女性問題を声高に叫ぶことも、直接的に取り上げることもなく、ユペールは自身のキャリアを見せるだけでフェミニズムを語ることができる。
ヨーロッパ公開から1年が過ぎ、『エル ELLE』がもうすぐ公開となる日本で、性犯罪の被害を顔出しで毅然とした態度で訴える女性にマスコミが味方した。日本の“世間”は、彼女にようやく追いついたのかもしれない。